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「雑損控除」という制度を知っていますか?日本は地震の多い国です。また、昨今の異常気象によってかつてない規模の台風や局地的な集中豪雨なども多発しており、災害によって、大切な家や家財などが損害を受けるケースも増えています。加えて、盗難によって財産を失うケースもあるかもしれません。
雑損控除は、災害や盗難などによって保有する資産に損害を受けた場合に利用できる制度です。では、雑損控除とは具体的にどのような制度なのでしょうか。
今回は、万が一の事態に備えて把握しておきたい雑損控除の概要や適用要件、計算方法などについて解説します。
目次
雑損控除とは、災害や盗難、横領などによって、資産が損害を受けた場合に一定の金額の所得控除を受けられる制度です。所得控除とは、所得税や住民税を算出する際の基礎となる所得額から、一定額を差し引くことができる制度です。所得控除によって所得額が低くなれば、所得税や住民税の額も低くなり、税負担を抑えることができます。
所得控除にはいくつかの種類があり、配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除、社会保険料控除、医療費控除なども、所得控除に該当します。所得控除は自動的に適用されることはなく、必要な手続きを行うことで年末調整や確定申告によって適用されることとなります。
雑損控除を受けられる人や雑損控除の対象となる資産には要件があります。
雑損控除の対象となるのは、納税者または納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族で、その年の総所得金額が58万円以下の人です。かつては総所得金額の上限は48万円でしたが、令和7年度税制改正によって58万円以下に引き上げられています。
参照元:国税庁「令和7年度税制改正(基礎控除の見直し等関係)Q&A」
また、雑損控除の適用対象となる資産は「棚卸資産もしくは事業用固定資産、または生活に通常必要でない資産のいずれにも該当しない資産であること」と示されています。
つまり、雑損控除は事業に必要な資産ではなく、個人の生活のために必要な資産に受けた損害が対象になるのです。具体的には以下のようなものは、生活に必要な資産に該当すると考えられます。
・住宅
・家具
・衣類
・家電
・自動車
国税庁では、生活に通常必要でない資産として次のような例を挙げています。
・別荘などの趣味や娯楽、保養、鑑賞の目的で保有する不動産
・ゴルフ会員権
・1個または1組の価格が30万円超の貴金属、書画、骨董
これらは、生活に必ずしも必要な物ではないと考えられるため、雑損控除の対象には含まれません。
雑損控除が受けられるのは、以下のような原因によって資産に損害を受けた場合です。
・震災、風水害、冷害、雪害、落雷などの自然現象の異変による災害
・火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
・害虫などの生物による異常な災害
・盗難
・横領
ここで注意したいのは、盗難や横領による被害は雑損控除の対象になるものの、詐欺や恐喝による被害は、雑損控除の対象とはならない点です。
雑損控除によって控除される金額の計算方法についてご紹介します。
雑損控除として申告できる金額は、以下のいずれかの計算方法のうち、多い方の金額です。
①(損害金額+災害等関連支出の金額-保険金等の額)-総所得金額×10%
②(災害関連支出の金額-保険金等の額)-5万円
損害金額とは、損害を受けた直前の資産の時価をもとに計算した損害の額です。また、災害関連支出の金額とは、以下のような支出を指します。
・災害により滅失した住宅や家財などを取り壊すためまたは除去するためにかかった費用
・盗難や横領により損害を受けた資産の原状回復のためにかかった費用
台風で住宅の屋根が損壊し、保険も使いながら修理をした場合の雑損控除額は次のように計算できます。
・給与所得500万円
・損害金額100万円
・修繕費80万円
・保険金40万円
①の式に当てはめて計算をする場合は、
100万円+80万円-40万円-500万円×10%=90万円と計算できます。
②の式に当てはめる場合は、
80万円-40万円-5万円=35万円となります。
比較すると、①の方が金額が大きくなるため、この場合は雑損控除の金額は90万円となります。
通勤用の自動車が盗まれてしまった場合も、雑損控除を適用させることができます。車の時価額が100万円で車両保険に加入していなかった場合、雑損控除の額は次のように計算できます。
・給与所得額500万円
①の式に当てはめて計算をする場合は
100万円-500万円×10%=50万円
②の式に当てはめて計算する場合
0円-5万円=0円
したがって、この場合は金額の大きい①の計算式で求めた50万円が雑損控除の金額となります。
扶養控除や配偶者控除、生命保険料控除など、所得控除の中には必要な書類を提出すれば、年末調整で控除を適用させることができるものもあります。しかし、雑損控除の場合、年末調整では対応できないため、必ず確定申告を行わなければなりません。
では、確定申告で雑損控除を受ける場合、どのように手続きを進めればよいのでしょうか。ここからは、確定申告の手続き方法について解説します。
雑損控除を受けるためには、以下のような書類の準備が必要です。
損害に関する証明書類は、災害や盗難などによって損害を受けたことを証明する書類です。
例えば、火災によって家屋や家具などに損害が生じた場合は、自治体の消防署が発行する罹災証明書が必要になります。また、地震や水害、台風などで居住する家屋に被害を受けた場合には自治体が発行する罹災証明書が必要です。自然災害によって家屋ではなく、自動車やフェンス、家具、家電などに被害を受けた場合は、被災証明書を準備します。
そのほか、盗難被害にあった場合は警察署が発行する盗難届受理証明書が必要になります。
家屋に被害があった場合には固定資産税の通知書や登記簿謄本、車や家財などが被害を受けた場合は購入時の契約書や領収書などを準備します。さらに、損害を補填するために保険金の支払を受けた場合には、保険金の支払通知書などの準備も必要です。
台風被害で屋根を修理した場合や地震で崩れたブロック塀を撤去するためにかかった費用など、雑損控除の計算に必要となる災害関連支出の額を証明する書類も必要です。修理や撤去などを依頼した業者から発行された領収書を準備しておきましょう。
確定申告書は、国税庁のホームページからダウンロードし、紙で作成する方法と国税庁のWebサイトに用意されている確定申告書作成コーナーを利用してパソコンなどで作成する方法があります。
まず、先ほどご紹介した計算式に当てはめて、雑損控除の金額を計算します。金額が計算できたら、確定申告書第一表の「所得から差し引かれる金額」の箇所にある「雑損控除」の欄に計算して求めた雑損控除の額を記載します。
次に、確定申告書第二表にある「雑損控除に関する事項」の欄に損害の原因、損害年月日、損害を受けた資産の種類など、損害金額、保険金などで補填される金額、差し引き損失額のうち災害関連支出の金額を記載します。
・損害の原因
損害の原因の欄には「火災」や「台風」、「地震」、「盗難」など、損害を受けた原因を具体的に記載します。
・損害年月日
損害年月日は損害を受けた日にちのことで、火災による損害の場合は火災が発生した日、盗難による損害を受けた場合は盗難された日を記載します。
・損害を受けた資産の種類
損害を受けた資産の種類には、家屋や家財、車などの分類を記載していきます。エアコンやテレビといった具体名を記載する必要はありません。
・損害金額
損害金額の欄には、損害金額と災害関連支出の合計額を記載します。
・保険金などで補填される金額
保険金を受け取った場合はその額を保険金などで補填される金額の欄に記載します。
・差し引き損失額のうち災害関連支出の金額
倒壊した住宅の取り壊し費用や除去費用など、災害関連支出の金額を記載します。
紙の確定申告書を作成した場合や確定申告書作成コーナーで作成した申告書をプリントアウトして提出する場合は、納税地を管轄する税務署に持参するか、郵送で送付します。
持参や郵送で提出する場合は、確定申告書のほか、罹災証明書や被災証明書、被害資産の取得価額や時期などが分かる書類など、必要書類も併せて提出する必要があります。
e-Taxを利用し、電子的に送付する場合は、証明書などに記載されている内容を入力して送信することで、書類の提出を省略することが可能です。また、対象書類のイメージデータ(PDF形式)をアップロードして提出することもできます。
雑損控除を受ける場合、確定申告書を提出できる期間は、損害を受けた年の翌年1月1日から5年間です。還付申告については5年までさかのぼって申請することが可能であるため、火災や雪害などによって被害を受け、原状回復などに携わっている場合は、忙しい中で慌てて申告をする必要はありません。5年以内であればいつでも申告をできるため、証明書類を保管し、状況が落ち着いてから申告を行うようにしましょう。
ただし、個人事業主など、確定申告で税金を納付する義務がある人の場合は、損害を受けた年の翌年の2月16日から3月15日までの間に、所得税の確定申告と合わせて雑損控除の申告を行うようにしましょう。
台風や地震など、災害によって損害を受けた場合は、災害減免法の適用を選択することも可能です。ただし、盗難や横領による損害については災害減免法を適用することはできません。
災害減免法とは、震災や風水害、火災などによって、住宅や家財に重大な損害を受けたときに所得税の免除や軽減を受けられる措置です。
災害減免法の適用を受けられるのは、次の要件をすべて満たす人です。
・災害にあった年の所得金額が1,000万円以下
・災害によって受けた損害の額が住宅または家財の価額の1/2以上
また、雑損控除の場合と同様、損害を受けた住宅や家財は納税者または納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族で、その年の総所得金額が58万円以下の人が所有するものでなければなりません。対象となる資産は、居住用の住宅や日常生活に必要な家具、家電、衣類、書籍であり、別荘や書画、骨董、娯楽品など生活に必要な程度を超える分については対象外となる点も雑損控除の適用を受ける場合と同様です。
災害減免法の適用が認められる場合に受けられる所得税の減免措置は所得金額によって変わります。所得金額が500万円以下の場合は、所得税が全額免除されます。
また、所得額が500万円超750万円以下の場合は所得税額の1/2、所得金額が750万円超1,000万円以下の場合は所得税額の1/4が軽減されます。
災害減免法による所得税の軽減または免除の適用を受けるためには、確定申告書の提出が必要です。
災害によって資産に損害を受けた場合は、雑損控除または災害減免法の適用を受けることで所得税の負担を軽減することが可能です。しかし、雑損控除と災害減免法の両方を適用させることはできません。
災害減免法では、災害にあった年の所得税のみを軽減することができます。一方で、雑損控除の場合、損害額が大きいために1年で控除しきれなかったときには、3年間にわたって控除を受けることが可能です。どちらを利用した方が、よりメリットが大きくなるのかを自分で判断をする必要があるため、判断に悩む場合などは税理士に相談するとよいでしょう。
雑損控除は、火災や震災、水害、風害、雪害、盗難、横領などによって資産に損害を受けた場合に利用できる所得控除制度です。雑損控除を受けるためには確定申告が必要ですが、雑損控除の金額を計算し、確定申告をすることで、所得税の負担を軽減することができます。
また、災害にあった場合は、雑損控除ではなく災害減免法の適用を受けることも可能です。
今後、災害や盗難、横領などの被害にあった場合は、雑損控除の適用を受けられることも覚えておくと、忘れずに申告できるでしょう。また、原状回復や倒壊した家屋の撤去などにかかった費用の領収書、罹災証明書など、必要書類は適切に保管しておくことも大切です。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者20万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
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