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赤字といえば、利益が出ていない状況のことであり、できれば赤字は避けたいという方がほとんどでしょう。しかし、個人事業主の中には、わざと赤字にするケースがあります。では、なぜ、個人事業主の中には、わざと赤字にする人がいるのでしょうか。
今回は、個人事業主がわざと赤字で申告する理由と赤字と偽って申告した場合のリスクについてご説明します。
目次
では早速、なぜ個人事業主がわざと赤字で申告をするのか、その理由を確認していきましょう。
個人事業主の場合、法人とは異なり、事業での収益がそのまま個人の収入となります。したがって、個人事業主が事業で赤字を続けている場合、個人としての収入を得られない状況にあるため、生活がままならない状況となるのです。給与所得のない個人事業主の事業収益が赤字であれば、生活費を賄えないだけでなく、自己資金からマイナス分を負担していることとなります。そのため、現実的に考えると、個人事業主が赤字を続けたまま、事業を継続することは困難だといえるでしょう。では、わざと赤字にするとはどういうことなのでしょうか。
事業を営む人にとって、赤字とは、利益が出ていない状況のことです。したがって、赤字が続けば事業の継続が難しくなり、閉業に追い込まれる可能性が高くなります。また、利益が出ていない事業者と喜んで取引をしたいという企業や個人事業主は少ないため、赤字は絶対に避けたい状況のはずです。しかしながら、わざと赤字にする個人事業主もいます。
わざと赤字にするとは、意図的に赤字の状況を作り出し、帳簿上、赤字に見える状況にするということです。個人事業主がわざと赤字にする方法としては、実際には事業とは関係のない支出を経費として計上する方法や経費を本来よりも多く計上する方法、売上を過少に計上する方法などがあります。
なぜ、個人事業主がわざと赤字にするのかと言われれば、その理由は、税金の負担を逃れるためです。事業が順調に推移し、業績が良くなれば、所得額も大きくなります。個人事業主が負担する税金である所得税は、事業の所得が増えれば増えるほど、税率も高くなる累進課税制度が採用されています。そのため、事業所得が増えるほど、所得税の納税額も大きくなるのです。
しかし、所得税は所得に応じて課せられる税金であり、所得がない場合には所得税が課せられることはありません。つまり、赤字の状態は所得がない状態となるため、わざと帳簿上の赤字を作り出しておけば、所得税を納める必要がなくなるのです。
個人事業主がわざと赤字にする理由は、所得税の納税負担を逃れるためだといえます。
個人事業主がわざと赤字にする行為は、正しく所得額を申告せずに、不正に税負担を逃れようとする違法行為です。そのため、個人事業主がわざと赤字にしていた場合、次のようなリスクが生じます。
個人事業主が赤字の場合、確定申告の義務はなくなるため、本当に赤字であれば、確定申告の義務はありません。しかしながら、本来は、課税対象となる所得を得ているにもかかわらず確定申告をせず、納税をしていない状況にある場合、税務調査の対象になる可能性が高くなります。
税務署は何らかの情報をもとに、確定申告をしていない人や正しく確定申告をしていない人を中心に税務調査を実施します。税務調査は、正しく確定申告を行っているかをチェックする調査であり、わざと赤字にしている個人事業主の場合、本当に事業の収益が赤字になるのかをチェックするのです。
税務調査の対象になった場合、わざと赤字を作り出すために帳簿上で行っていた不正な操作は、調査官から指摘されることになるでしょう。税務調査によって、わざと赤字にしていることが発覚すると、無申告加算税や重加算税が課されるリスクがあり、本来よりも多くの税金を納めなければならなくなります。
無申告加算税とは、申告期限内に確定申告を行わなかった場合に課せられるペナルティです。個人事業主の場合、所得税の確定申告期間は、原則として2月16日から3月15日までとなっています。この間に確定申告を行っていなかった場合は無申告加算税の対象となります。
本当に事業が赤字であれば、この間に確定申告を行っていなくても問題はありません。しかし、税務調査によってわざと赤字にしていたことが発覚した場合、確定申告が必要な状況であったと判断されます。そのため、確定申告をしていなかったペナルティとして無申告加算税が課されるのです。
無申告加算税の税率は、50万円以下の部分については15%、50万円超300万円以下については20%、300万円超の部分については30%となっています。
例えば、わざと赤字にしなければ100万円の所得税の納税が必要だった場合、無申告加算税が課せられると、100万円のうち50万円の部分については7万5千円、300万円以下の部分である残りの50万円については、10万円が加算されるため、合計117万5千円の納税が求められます。わざと赤字にすると、正しく申告をしていた場合に比べ、17万5千円分多く納税しなければならなくなるのです。
重加算税とは、仮装・隠蔽が見られた場合や多額の税金逃れが発覚した場合などに課せられる加算税です。無申告加算税に代えて重加算税が課される場合の税率は、40%となっています。
経費を過剰計上したり、売上を過少に申告したりといった、わざと赤字に見せる行為は、仮装・隠蔽の行為に該当します。そのため、場合によっては無申告加算税ではなく、重加算税が課される可能性もあります。
無申告の場合、税務調査では最低でも過去5年分を遡った調査が行われます。また、悪質な行為が見受けられた場合には、過去7年分まで調査が行われるケースもあります。長年にわたってわざと赤字になるよう帳簿上の操作をしてきた場合などは、1年分だけではなく、調査対象期間分の税金と重加算税の納税が求められるため、追徴課税の額はかなりの高額になる恐れもあるでしょう。
重加算税を課される場合、行政罰だけでなく、刑事罰を科される可能性もあります。わざと赤字にする行為は、不正に税金を逃れる脱税行為に該当するものです。所得税を不正に逃れようとした場合、所得税法違反の罪に問われる可能性があります。
所得税法では、脱税行為が見られた場合、10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方が科せられる恐れがあるのです。裁判で所得税法違反の罪が確定すれば、取引先からの信頼を失うことは避けられません。そのため、わざと赤字にする行為がバレたときには、事業を継続することも難しくなる可能性があります。
個人事業主が税金から逃れようとわざと赤字にすると、税務調査で不正を指摘されるだけでなく、その他の面でもデメリットが生じます。
事業を成長させたいときや法人化したいときなど、設備投資などのために資金調達が必要になる場合もあるでしょう。金融機関に融資を申し込む際には、確定申告書など事業の収益状況を示す書類の提出が必要です。
金融機関では、提出された書類をもとに、融資をするべきか、融資を見送るべきかの判断をします。融資をしても、融資額を回収できない恐れが高い場合、当然、融資は見送りとなります。つまり、赤字の決算書を提出した場合、融資の申し込みをしても審査に通らない可能性が高くなるのです。融資を受けられなければ、資金調達の方法は限られるため、事業拡大や法人化も見送りとなってしまうでしょう。
住宅ローンの申し込みを行う際、会社員の場合には収入を証明する源泉徴収票の提出が求められます。個人事業主の場合は源泉徴収票がないため、直近の確定申告書や納税証明書などの提出が必要です。しかし、赤字が続いており、確定申告をしていなければ、確定申告書は作成していません。また、赤字の場合には所得税も課税されないため、納税証明書を提出することもできません。つまり、わざと赤字にしてしまうと個人事業主は収入を証明する手段がないのです。
収入を証明する手段がなければ、住宅ローン審査に必要な書類の提出ができないため、住宅ローンの申し込みができません。したがって、マイホームを取得したいと思っても、住宅ローンを利用して自宅を購入したり、建築したりすることは難しくなります。
納税証明書がない場合、収入の証明ができないため、住宅ローンを組むことはできません。しかし、納税証明書がないと賃貸契約も締結できない可能性があります。
賃貸住宅に住む場合、契約締結前に入居審査が行われます。入居審査の際には、所得を証明する書類の提出が求められ、家賃を滞納せずに支払い続けられる能力があるかをチェックされるのです。オーナーとしては、滞納リスクの高い、所得の少ない人には物件を貸し出したくないと考えます。わざと赤字にしている個人事業主の場合、本当は収入があるといっても、公に収入を証明できる書類がないために、賃貸住宅の契約も結べなくなってしまう恐れがあります。
個人事業主がわざと赤字にする行為は、不正な所得隠しであり、犯罪に該当する行為です。税務調査によって、本来は赤字ではないことが発覚すれば不足分の税金を納めるよう求められるだけでなく、脱税の罪で告発される恐れがあります。さらに、住宅ローンや融資の申し込みができず、住居の賃貸契約も難しくなる可能性もあるため、わざと赤字にする行為は、決して行ってはいけません。
個人事業が何年も赤字状態にある場合、収入がない状態が続くため、生活ができない状況となるはずです。それにもかかわらず、事業が継続している場合、税務署では本当は赤字ではないのではという疑いをいだきます。
また、取引先の企業などに税務調査が入った場合、税務署では請求書や納品書、契約書などの情報から取引相手となる企業や個人事業主についても調査を行うことがあります。その際、請求書や納品書が多数発行されているにもかかわらず、確定申告がなされていない、または赤字で確定申告書が提出されていれば不正を疑うことになるでしょう。
そのほか、第三者からの密告によってわざと赤字にしているという情報を税務署がつかむケースもあります。正しく納税をしている人にとって、不正に税金を逃れようとする姿勢は、決して歓迎される行為ではありません。そのため、第三者からいわゆるタレコミがなされるケースは少なくないのです。
わざと赤字にしている場合、税務調査で不正を指摘されれば、無申告加算税や重加算税などが加算されます。しかし、税務務調査の前に自主的に正しく申告を行えば、無申告加算税の税率が軽減される措置が適用されるのです。税務調査の事前通知を受ける前に、自主的に期限後申告をした場合、金額に関わらず、税率は5%にまで軽減される可能性があります。
赤字を装っていると税務調査の対象になりやすいだけでなく、融資や住宅ローンの借り入れができないなど、さまざまなデメリットが生じます。万が一、現在、帳簿上の赤字を作り出し、税金の負担を逃れているような場合は、税務調査が実施される前に早めに期限後申告を行いましょう。
税金の負担を逃れるために、個人事業主がわざと赤字にするケースがあります。しかし、税務署ではさまざまなルートから無申告者の情報を収集しています。帳簿上、赤字に見せかけている場合、税務調査の対象に選ばれやすくなり、無申告加算税や重加算税などを課されるリスクが高くなるでしょう。
税金の負担を軽減したい場合には、経費を漏れなく計上したり、青色申告特別控除の適用を受けるといった節税対策があります。不正をした場合には加算税によってより多くの税金の納税が求められるため、正しく確定申告をすることは、税負担の軽減につながります。もし、わざと赤字にしている場合には、税務調査の対象になる前に自主的に期限後申告を行うことをおすすめします。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計5,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
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