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一定以上の所得を得ている個人や法人は税金を納めなければなりません。税金を正しく納めない脱税は犯罪行為となり、脱税をした場合には、罰金が科されます。また、脱税と似た言葉に所得隠しや申告漏れといった言葉もありますが、脱税以外の所得隠しや申告漏れでは、罰金が科されることはないのでしょうか。
今回は、脱税と判断される目安や脱税に科せられる罰則、罰金の相場などについてご説明します。
目次
脱税とは、納税の義務がある人が、納税をしなければならないことを知りながら正しく納税をしない行為のことです。会社に勤める人の場合、毎月支払われる給与や年に数回支払われる賞与から、所得税や住民税などが差し引かれています。企業は、従業員の給与から税金を差し引き、個人に代わって国に納付する義務があるのです。
一方、個人事業主の場合は、自ら確定申告を行い、所得税などの納税を行わなければなりません。また、企業も事業年度ごとの所得を計算し、自ら申告をしたうえで、法人税などの納税を行う義務があります。しかし、中には、確定申告を行わなかったり、所得額を不正に低く見せかけて本来よりも少ない額の税金を納めたりするケースがあるのです。このような行為を脱税といいます。
所得隠しとは、その名の通り、所得を隠す行為のことです。法人税や所得税は、所得額に税率をかけて算出します。所得額が低くなれば、納めるべき税金も低くなるため、納税額を低く抑えようと売上の一部を隠蔽したり、経費を実際よりも多く計上するなどして、意図的に所得を低く見せかける行為を所得隠しといいます。
所得隠しと脱税を分ける明確な定義があるわけではありません。所得隠しのうち、より悪質な行為が見られた場合や、所得隠しの期間が長い場合、所得額が高額に上った場合などに脱税とみなすケースが多くなっています。
所得隠しと同様、脱税と似た言葉に申告漏れがあります。申告漏れは、意図的に所得を隠したり、経費を多く計上したりといった行為をしたのではなく、ミスによって売上の一部を計上するのを忘れていたり、経費を誤って多く計上した場合などに使われる言葉です。脱税や所得隠しが税金を逃れようと、意図的に売上の隠蔽や経費の水増しをする行為であるのに対し、申告漏れは、意図せず行った行為によって、結果的に申告額が不足してしまったケースを指します。
脱税が発覚し、脱税であることが認められるまでの流れについてご説明します。
国税局査察部とは、いわゆる「マルサ」と呼ばれる部署のことです。悪質な所得隠しなどが疑われる、脱税の可能性がある案件に対し、強制調査を実施する部署が国税査察部です。
国税査察部では、脱税が疑われる案件に対して強制的に調査を行いますが、この場合、脱税罪として告発を行うことも視野に入れた調査を行います。そのため、国税査察官には、税法だけでなく、刑事法の詳しい知識も求められるとされています。
一般的な税務調査は任意調査と呼ばれる調査です。任意調査では、税務署に所属する調査官が事前通知と呼ばれる連絡によって、納税者に対し、調査を実施する日時についての連絡を行います。そのため、納税者は事前通知で伝えられた日程をもとに、調査に向けた準備を進めることが可能です。
しかし、脱税が疑われる際に実施される強制調査の場合、任意調査のように事前通知が行われることはありません。強制調査が実施される際には、事前連絡なしに突然査察官が現場を訪れ、脱税の証拠となる帳簿や書類などを押収するのです。国税査察部では、脱税の疑いを抱いた場合、取引先や金融機関などに対する調査を行い、ある程度の確信を持って強制調査に踏み切ります。その際、裁判所にも捜査令状を請求しているため、資料の押収がなされるケースがほとんどです。
国税査察部による調査が完了するまでには長い時間がかかります。詳しい調査によって脱税の罪が成立すると判断された場合は検察への告発がなされますが、査察調査後に告発まで進むケースは全体の約70%にも上ります。
検察では告発されると、刑事事件として捜査を開始します。被疑者在宅のまま捜査を行うケースが多いですが、証拠を隠滅するような恐れがある場合などは、脱税の疑いを抱かれた被疑者は逮捕され、勾留されることになります。
捜査の結果、脱税の可能性が高くなると検察官による起訴が行われ、刑事裁判が実施されます。刑事裁判の結果、有罪が確定した場合には、判決が言い渡され、罰金を含めた刑事罰が科せられることとなるのです。
脱税は、法に違反する行為です。そのため、脱税をした場合は、罰が科されます。脱税の罰には行政処分と刑事罰の2つがあります。
行政処分とは、行政機関が法令に基づいて行う処分のことで、行政法上の義務に違反した場合に科せられる罰のことです。脱税を行った場合は、行政処分が科せられることが国税通則法によって示されています。
脱税時の行政処分は、加算税と呼ばれる罰金的な性格を持つ税金の課税です。脱税をしたときには、重加算税の納税が求められます。重加算税は、脱税や所得隠しをした場合などに科される税金で、確定申告をしなかった場合の税率は40%、確定申告をしたものの税額が不足していた場合の税率は35%となります。
裁判によって脱税であることが認められると刑事罰が科されます。個人事業主が脱税をした場合は所得税法違反、法人が脱税をした場合には法人税法違反となり、消費税の不正還付を受けた場合には消費税法違反となります。脱税の罪を犯した場合の刑事罰は、基本的に10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方です。脱税行為を行っていた期間や脱税をした額、脱税行為の手段などによって、罰金の額も変わり、懲役刑の長さも変わります。
上でご説明したように、脱税をしたときには、罰金的な性格を持つ加算税と刑事罰による罰金の両方が科されます。では、脱税で科される罰金の相場はどのくらいになるのでしょうか。
重加算税の相場は、不足分の納税額によって変わるため、一概に相場の額を伝えることはできません。しかしながら、令和7年6月に国税庁が発表した「令和6年度 査察の概要」を見ると、令和6年度の査察調査では、98件を検察庁に告発し、告発した事案の脱税総額は82億円、1件当たりの脱税額の平均は8,400万円に上るとしています。
また、令和6年度中の判決状況については一審判決99件すべてに有罪判決が言い渡されたことが示されており、13人に対して実刑判決が下されたといいます。また、令和6年度の脱税額を見ると、最も多いのは法人税の42億4,100万円、次に多いのが所得税の18億円となっています。
脱税時の刑事罰は、基本的に10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれの併科です。したがって脱税した際に科される刑事罰の罰金は、最大でも1,000万円だろうと思われる方も多いかもしれません。しかし、脱税の刑事罰の罰金が1,000万円以上になるケースもあり、法律上では脱税額が1,000万円を超える場合には、罰金も脱税額まで増額される可能性があることが示されています。
では、脱税したときに科される刑事罰の罰金相場はどのくらいなのでしょうか。これまでの事例を見ると、所得税法違反や法人税法違反の脱税時の罰金相場は、脱税額の10~30%となるケースが多いようです。
「令和6年度 査察の概要」の中では、査察事件の一審判決状況とともに、1件当たりの罰金額についても示されています。それによると、令和6年の脱税時の1件当たりの犯則税額は5,900万円、罰金額は1,500万円でした。また、1人当たりの懲役月数は15.7ヶ月となっています。
このことから、令和6年度に脱税をした事例では、刑事罰の罰金の相場は、脱税額の25%程度に当たることが分かります。令和5年度のデータを見ても、1件当たりの犯則税額が5,800万円、罰金額が1,500万円となっているため、おおよそ脱税による罰金の相場は脱税額の25%程度になると考えられます。
参照元:令和6年度査察の概要
脱税の際には罰金として重加算税が科されますが、所得隠しや申告漏れの際にも行政処分として罰金的な加算税が科されます。
所得隠しの際に科される罰金は、重加算税です。確定申告の必要性は理解しているにもかかわらず納税を怠っていた場合やわざと申告額を低く装っていた場合など、所得隠しに該当する行為が見られた際に科せられる加算税は、脱税のときと同じ重加算税となります。
重加算税の税率は、確定申告をしていなかった場合には納税額の40%、確定申告をしていたものの納税額が不足していた場合には不足分の税額の35%です。ただし、脱税のときのように、刑事罰の罰金が科されることはありません。
うっかり所得の申告を忘れてしまった場合や記入ミスなどによって申告額が不足してしまった場合は、意図して納税額を少なくしたのではなく、偶発的に納税額が低くなってしまったと捉えられます。そのため、脱税や所得隠しに比べると、申告漏れに科される加算税の税率は軽減されます。
確定申告の必要性を理解していなかったために期限内に確定申告をしなかった場合に科せられる罰金の意味合いを持つ加算税は、無申告加算税です。無申告加算税の税率は、納税額によって変わってきます。納税額が50万円以下の部分は15%、納税額が50万円超300万円以下の部分は20%、300万円超の部分については30%です。
また、確定申告はしたものの、納税額が意図せずに不足してしまった場合に科される罰金(加算税)は過少申告加算税といいます。過少申告加算税の税率は、不足分の納税額が期限内申告の額と50万円のいずれか大きい方より少ない場合は10%、超える場合は15%です。
延滞税は、税金の納付が遅れたことに対するペナルティとして科される罰金です。延滞税は、納税が遅れたことに対する利息的な意味合いを持つ税金であり、納付が完了する日までの日数に応じて科されるという特徴があります。
延滞税の税率は、法定納期限の翌日から2ヶ月を経過する日までとそれ以降の2段階に分けられています。法定納期限の翌日から2ヶ月を経過する日までの税率は、2.4%、納期限の翌日から2ヶ月を経過した日以降は年8.7%です。(令和4年1月1日から令和7年12月31日までの期間)
脱税の罪が確定した場合、多額の罰金が科せられます。重加算税、延滞税といった行政処分に加え、刑事罰の罰金も科せられると、その額は多額に上るでしょう。
また、脱税では、10年以下の懲役が科せられる恐れもあります。前述のように令和6年度の事例を見ると、1人当たりの懲役月数は15.7ヶ月です。執行猶予つきの懲役刑であれば通常通りの生活を送ることができますが、実刑判決となればすぐに刑務所に収監されることとなります。執行猶予がつくか、実刑判決が下るかの違いは、脱税額の大きさによるといわれています。脱税額が大きな事件では、執行猶予はつかず、実刑判決が下されるケースが多いのです。
ただし、執行猶予がついた場合でも犯罪者であることに変わりはありません。そのため、脱税の罪が確定した場合には、取引先や顧客などからの信頼も失うことになるでしょう。取引先や顧客との関係が悪化すれば、当然、業績悪化は避けられません。最悪の場合、事業をたたまざるを得ないケースもあるでしょう。
意図的に税金を逃れようとする行為を所得隠しといい、その中でも特に悪質な行為が見られる場合や多額の税逃れが見られるケースを脱税といいます。脱税の場合、検察庁への告発を前提とした国税局査察部による調査が実施され、裁判によって脱税の罪が確定すると、罰金刑や懲役刑が科されることになります。
脱税では、行政処分による重加算税や延滞税の納税も求められるため、いわば二重に罰金が科されることになるのです。刑事罰の罰金の相場は、脱税額によって変わりますが、ここ数年の事例を見ると脱税額の25%程度が目安になると考えられます。重加算税の税率と合わせて考えると、脱税の罪が確定した場合には、多額の罰金の支払いが求められることになるのです。
脱税をしていてもバレないと思うケースもあるかもしれません。しかし、脱税をしている個人事業主や法人は遅かれ早かれ、調査の対象になるはずです。多額の罰金を背負う前に、正確な所得額を算出し、期限内に適切に確定申告を行うことが大切です。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
お客様からの税務調査相談実績は、累計5,000件以上。国税局査察部、税務署のOB税理士が所属し、税務署目線から視点も取り入れ税務調査の専門家として活動。多数の追徴課税ゼロ(いわゆる申告是認)の実績も数多く取得。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
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