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個人事業主は、事業のために必要となった費用を経費として計上し、売上から差し引くことができます。個人事業主であっても経費として処理できるのは、事業のためにかかった費用だけです。しかし、会社員などから「個人事業主はなんでも経費として計上できるから、ずるい」と指摘を受けることがあります。個人事業主の中には、ずるいと言われるような経費の扱いをしているケースもあるかもしれません。しかし、ずるい経費の処理を行っている場合、さまざまなリスクが生じます。
今回は、個人事業主が経費処理でずるいと言われる理由や正しく申告しない場合のリスク、個人事業主の節税テクニックなどについてご説明します。
目次
個人事業主が経費の面でずるいと言われる理由は、正しく経費を計上していない人がいるからです。次のような経費の取り扱いをしている人がいる場合、会社員などに個人事業主はずるいという印象を与えてしまうでしょう。
個人事業主として事業を営む人が、友人と飲み会を開いた場合、経費で落とすからといって領収書を切ってもらうシーンを見かけたら、個人事業主はずるいと思われるでしょう。プライベートの飲食費は、経費として計上することはできません。本来、経費として計上できる接待飲食費は、取引先など、事業で関係がある人を接待するために使った費用のみです。
事業のために使用するものの購入費用であれば、経費として計上することができます。しかし、事業で使用すると言っても、スーツやネクタイ、腕時計、革靴、バッグなどを経費として計上することはできません。もし、モデルなどの事業を営み、衣装として必要なものであれば、経費計上ができるケースもあります。しかし、プライベートの時間にも着用する可能性がある衣服やアクセサリー代などを経費として計上することは認められていません。個人事業主で、上質なスーツや腕時計などを身に付けている場合、経費で落としたのではと疑われ、個人事業主はずるいという印象を与えることもあるようです。
取引先などへ贈るお中元やお歳暮、お祝いの品、慶弔費などは、経費として扱うことができます。しかし、友人など、プライベートな交友関係にある人に対して贈るプレゼントの代金を経費として計上することはできません。もし、個人的な関係にある人に対し、プレゼントを購入し、その購入費用を経費として計上している個人事業主がいる場合、ずるいと思われても仕方ないでしょう。
個人事業主が全員、ずるいと言われるような、経費の扱い方をしているわけではありません。上に紹介したような経費計上は、正しくない経費計上方法です。個人事業主が経費計上を正しく行わない場合、さまざまなリスクが生じます。
個人事業主がずるい経費計上をした場合のリスクについてご説明します。
プライベートな飲食費用や贈り物代まで経費として計上していると、当然、その額は大きく膨らむでしょう。事業の内容によって経費が多くかかるケースもあります。しかしながら、同業の他の個人事業主と比較しても、売上の額に対して極端に経費として計上されている額が多い場合、税務調査の対象になるリスクが高まります。
税務調査とは、正しく納税をしているかをチェックする税務署による調査です。税務署では確定申告書の内容をチェックし、申告内容に不審な点がある個人事業主や法人を対象に税務調査を行います。経費の額が異常に多い場合、経費としては計上できない支出まで経費計上し、不正に税金を低く抑えようとしているのではという疑いを抱くのです。経費として計上されている金額が、本当に事業に必要な支出だったのかを確かめるためには、税務調査を行い、領収書などとも突き合わせながら経費計上の正当性を確認しなければなりません。
税務調査の対象になると、過去数年分の申告内容がチェックされます。もし、何年もずるい経費計上をしていた場合、過去にさかのぼって不正な経費計上が指摘されることになるでしょう。
税務調査で、経費計上の不正が指摘された場合、過少申告加算税の納税が求められます。過少申告加算税とは、申告した税額が本来よりも少なかった場合に課されるペナルティです。
過少申告加算税の税率は、不足分の税額の10%または15%となります。
税務調査に経費を否認されると、その分、売上から差し引ける額が少なくなるため、課税所得額が高くなり、納めるべき税額もアップします。不足分の税額については当然納税する必要がありますが、ずるい行為を行うと、不足分だけでなく、ペナルティ分の税金も納めなければならなくなるのです。
税務調査によって納税額の不足が指摘された場合に科されるペナルティは過少申告加算税だけではありません。過少申告加算税に加え、納税が遅れたことに対するペナルティとして、延滞税の納付も求められるのです。
延滞税は、納期限の翌日から、納税が完了する日まで日割りで計算されるという性質があります。税金の納付が遅れたことに対する利息的な意味合いを持つため、全額、納付が完了するまでは延滞税が課され続けるのです。過少申告加算税に加え、延滞税の納付も求められるとなると、正しく申告をした場合に比べ、納めなければならない税金は膨れ上がります。
不正に経費を計上していただけでなく、プライベートな支出を業務上の支出のように装った場合など、多額の税金逃れが発覚した場合、過少申告加算税ではなく、より税率の重い重加算税の納付が求められます。過少申告加算税に代わって課される重加算税の税率は、35%にも上ります。
さらに、重加算税が課されるだけでなく、脱税の容疑で告発される可能性もあります。裁判で脱税の罪が確定すると、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらの両方が科されます。そして、その後の人生を前科者として送らなければならなくなるのです。
ご紹介してきたように、ずるいと言われるような不正な経費の計上を行うと、さまざまなリスクを負う可能性があります。個人事業主が経費として計上できる支出は事業のために必要となった次のような経費です。
・個人事業税
・不動産取得税
・固定資産税
・自動車税
・印紙税
・登録免許税
・商工会の会費
・町内会費 など
・水道料金
・電気料金
・ガス料金 など
・固定電話料金
・携帯電話料金
・インターネット回線の料金
・切手代
・はがき代 など
・電車代
・バス代
・タクシー代
・飛行機代
・宿泊代
・高速道路の料金 など
・広告掲載料
・ポスター制作費
・チラシ印刷費用
・ホームページ制作費用 など
消耗品費
・文房具の購入費
・コピー用紙の購入費
・名刺の印刷費
・デスクやチェアなどの事務用家具の購入費 など
・配送料
・段ボールの購入費用
・緩衝材の購入費用
・ガムテープの購入費用 など
・取引先を招いての飲食代
・会議の際に提供した弁当代
・来客時に提供するお茶の購入費用
・贈答品の購入費用
・御祝儀、御香典 など
・事業所の家賃
・礼金
・駐車場代 など
・事業用車両の購入費
・車検代
・ガソリン代
・修理代
・外出先での駐車場代 など
・事業所の火災保険料
・事業用の車の自動車保険料、自賠責保険料 など
・機械や設備の修理代
・事業所の修理代 など
・振込手数料
・ATM手数料
・仲介手数料
・事業用ローンの繰り上げ返済手数料
・証明書の発行手数料
・代引き手数料 など
・弁護士報酬
・税理士報酬 など
個人事業主の場合、事業所得がそのまま個人の所得につながり、所得額に応じた所得税の納税が求められます。所得税には、所得額が高くなるほど高い税率が適用される累進課税制度が採用されています。事業が順調に推移し、売上が高くなると、課される所得税額も高くなるため、できれば税金を低く抑えたいと考える方は多いでしょう。
しかし、ずるいと言われるような経費計上を行い、所得を圧縮することは絶対にやってはならない行為です。できるだけ税金の負担を軽くするためには、違法行為で欺くのではなく、合法的に納税額を抑える節税対策を取り入れることをおすすめします。
個人事業主が経費として計上できる支出はさまざまです。上記に示した以外にも、事業によっては経費計上が認められるものもあります。
例えば、自宅で事業を営んでいる場合、自家用車を事業用にも使用している場合などは、家事按分によって事業に使用している分のみを経費に計上することが可能です。ただし、事業の使用分を事実に合わせて正しく計算していない場合、税務調査時に家事按分した経費の計上が否認される恐れがある点には注意しなければなりません。
個人事業主の確定申告方法には、白色申告と青色申告の2種類があります。このうち青色申告は、複式簿記での記帳が求められるなど、白色申告に比べて複雑な経理処理が必要です。しかし、青色申告には節税につながるさまざまな優遇措置が用意されています。
確定申告の期間内に青色申告を行った場合、青色申告特別控除を適用することが可能です。青色申告特別控除は、10万円・55万円・65万円のいずれかの額を課税所得から差し引ける制度であり、課税所得額が低くなれば、所得税の負担を軽減することができます。また、所得税だけでなく、住民税や国民健康保険料も課税所得額をもとに算出されるため、これらの負担も軽減されるなど大きなメリットを得られます。
青色申告者の場合、赤字を3年繰り越すことも認められます。白色申告の場合、事業が赤字になっても、翌年以降に黒字となれば、所得額に応じた所得税の納税が必要です。しかし、青色申告の場合、翌年以降、黒字になった場合、黒字の額から赤字分を相殺できるため、黒字になった年の所得税の負担を抑えることができます。この点も青色申告が節税につながる理由の一つです。
青色申告では、生計を一にしている家族や親族を青色事業専従者として、青色事業専従者給与を支給することができます。白色申告の場合も、事業専従者控除として最大86万円を控除することは可能です。しかし、青色申告の場合、白色申告に比べて要件が緩和されており、業務内容に見合った額であれば、給与として支払った金額は全額経費として扱うことができます。家族内で所得の分散ができれば、所得税の負担を軽減でき、節税効果を得られます。
個人事業主の場合、取得価額が10万円以上20万円未満の固定資産は一括償却資産にあたるため、法定耐用年数に関わらず、使用を開始した年から3年間で均等償却を行うか、通常の減価償却を行うか選択できます。また、青色申告者の場合は、少額減価償却資産の特例を適用させると、取得価額が30万円未満の固定資産を購入年に一括して経費計上することが可能です。
一括償却資産は使用開始年から3年間の均等償却、少額減価償却の特例を活用すると購入年の即時償却ができるため、利益が多く出ている年などは、これらの制度を活用すると、課税所得額を圧縮できて節税に効果的です。
個人事業主の中には、本来は経費として扱うことができないプライベートな支出まで、経費として計上している場合があります。これが、個人事業主はなんでも経費に計上できるからずるいと言われる理由となっています。
しかし、個人事業主がなんでも経費に計上できるわけではなく、経費計上が認められるのは事業に関係する支出のみです。ずるいと言われるような経理処理を行っている場合、税務調査の対象となり、ペナルティを科される恐れがあります。納税額を抑えたいのであれば、違法に税金逃れをするのではなく、青色申告を行うなど、合法的な節税対策によって税負担の軽減を図ることが大切です。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
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