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個人事業主として事業を営む場合、所得が増えると課される税金も増えるため、経費として計上できるものは、できるだけ経費として扱いたいと考える方が多いでしょう。その中でも家賃は毎月発生する支出であり、家賃も経費に計上できれば節税対策として大きな効果を発揮します。
では、個人事業主は家賃を経費として扱うことはできるのでしょうか。
今回は、個人事業主の家賃を経費として扱う際のポイントや割合の求め方、注意点などについてご説明します。
目次
個人事業主は、事業に関係する建物の家賃であれば、経費として計上することが認められます。個人事業主が経費に計上できる家賃は、大きく分けると次の3つに分けられます。
事業所として賃貸物件を借りている場合、家賃の全額を経費として計上することができます。
また、事務所の家賃のほか、バーチャルオフィスの使用料やコワーキングスペースの使用料なども、経費として計上することが可能です。さらに、事業用の車を所有している場合、事業用車を停める駐車場代も経費として扱うことができます。
個人事業主の場合、自宅を事業所として使用しているケースも多いでしょう。自宅兼事業所の場合は、家賃を全額、経費に計上することはできません。ただし、賃貸住宅として借りている自宅を事業所として使用している場合、事業で使用している分の家賃については経費として計上することが可能です。プライベートの使用分と事業として使用している分を区分し、事業用部分の割合を算出することを「家事按分」と言います。
事業所として借りている家賃は、全額を経費として計上できるため、特に複雑な処理は発生しません。しかし、自宅と事業所が一緒の場合は、家事按分が必要です。家事按分によって事業で使用している割合を算出する方法には、時間で使用割合を決める方法と面積で使用割合を決める方法の2種類が主に用いられています。
使用時間で家賃の家事按分をする場合は、まず、仕事をしている時間を算出します。例えば、1日8時間、週5日仕事をしている場合、1週間のうち、仕事に費やしている時間は、8時間×5日で40時間となります。
次に、1週間の総時間数を計算すると24時間×7日となり、1週間の総時間数は168時間です。
168時間のうち、仕事をしている時間の割合を求めると、使用時間の割合は40時間÷168時間×100=23.8%となります。
この場合の按分比率は23.8%となり、家賃の23.8%の額を経費として計上できます。家賃を10万円とした場合、毎月23,800円を経費として計上できるのです。
年間を通して業務時間の変動が少ない場合や事業専用の部屋を所有していない場合などは、使用時間で家賃の家事按分をする計算方法が適しています。また、繁忙期と閑散期があり、時期によって業務時間の差が大きい場合は、月ごとに業務時間を変更したり、年間の平均業務時間を算出するなどして、適切な割合を算出することが大切です。
仕事だけで使用する事業専用の部屋が決まっている場合などは、仕事部屋の面積の割合に応じて、家賃の家事按分をする方法が適しています。
例えば床面積が60㎡の賃貸住宅で、15㎡の部屋を事業用として使用している場合、事業用として使用している面積の割合は、15㎡÷60㎡×100=25%となります。家賃が10万円だった場合、10万円×25%=25,000円となり、毎月25,000円を経費として計上することが可能です。
ただし、ワンルームを借りている場合や事業専用の部屋を設けることができない場合などは、面積で按分することは難しいでしょう。その場合は、先述の仕事をする時間の割合に応じて按分する方法の方が適しています。
個人事業主が家賃を経費計上する際には、注意しなければならないポイントがいくつかあります。
個人事業主は、白色申告の場合であっても、青色申告の場合であっても、事業で使用する分についての家賃の経費計上が認められています。事業専用の建物を借りている場合は、家賃をそのまま計上できますが、自宅兼事業所としている場合は、必ず家事按分を行い、事業で使用する分のみを経費として計上しなければなりません。
家事按分の割合が高すぎる場合などは、税務調査時に指摘を受ける可能性があります。家事按分による経費計上が認められるためには、業務に必要な部分を明確に区分できていることが前提となります。税務調査の際、按分比率の算出根拠について、調査官が納得できるような適正な計算方法を用いることが重要です。
賃貸借契約を締結する際には、家賃以外に敷金や礼金を支払うケースがあります。このうち、礼金については、経費計上することが可能です。ただし、自宅兼事業所の場合は、礼金についても家事按分を行い、事業の使用割合分のみを計上することとなります。
一方、敷金の経費計上は認められません。なぜなら、敷金は一時的に預ける金額であり、退去時には返還される可能性がある金額だからです。返還の可能性があるお金については、経費計上が認められない点に注意しなければなりません。
同一生計の家族や親族が所有する物件を事業所として使用している場合、または自宅兼事業所として使用している場合、家族や親族に支払う家賃は経費として計上することはできません。
しかしながら、家族や親族が第三者から借りている物件を事業所として使用し、事業に使用している分の家賃を支払っている場合は、その分を経費として計上することは可能です。また、生計を一にしていなければ、家族や親族が所有している物件に家賃を払っても、経費として認められます。ポイントは、生計を一にする家族・親族が所有する物件に家賃を支払った場合は、その分を経費にはできないということです。
経費を計上する際には、金銭の支払いがあったこと、金額が正しいことを証明する領収書などが必要です。家賃を経費に計上する場合も、家事按分比率だけでなく、家賃の額を証明する書類がなければ、計上額が正しいかどうかを判断することはできません。
そのため、家賃の額が記載されている賃貸借契約書や家賃の支払いを示す預金通帳などの資料を保管しておくことも忘れないようにしましょう。
ここまで、賃貸住宅を事業所として使用しているケースの家賃についてご説明してきました。しかし、個人事業主の中には持ち家の一部を事業所として使用している方もいらっしゃるでしょう。家賃を経費に計上できるのであれば、持ち家にかかる費用も経費に計上できないのかと思うのではないでしょうか。
持ち家の場合、賃貸住宅のように家賃は生じないため、家賃を経費として計上することはできません。しかし、一部の費用を経費に計上することは可能です。
持ち家を自宅兼事業所として使用している場合に、経費として計上できる費用は次のようなものがあります。
・建物の減価償却費
・土地や建物に係る固定資産税や都市計画税
・住宅ローンの利息 など
持ち家の場合、減価償却費については経費に計上できます。しかし、持ち家を取得した時期によって、減価償却の仕方が変わります。まず、個人事業主として開業した後に自宅兼事務所を取得した場合は、取得時に固定資産として計上し、減価償却のタイミングで事業用の部分は減価償却費、プライベートの使用分については事業主貸として処理します。その際も、事業として使用している割合に応じて家事按分をしなければなりません。
また、自宅取得後に事業を始めた場合は、事業を営む前の期間については固定資産に加えることができません。そのため、事業供用開始時点で事業用部分を固定資産計上し、残存耐用年数に基づいて減価償却します。
土地は減価償却の対象とはならないため、土地の取得費用については経費に計上できない点も覚えておきましょう。
住宅ローンの元本は経費に計上することはできません。しかし、住宅ローンの利息分については、経費計上が可能です。ただし、住宅ローンの利息部分についても経費計上できるのは、事業用の割合分のみに限定されます。
住宅ローン控除の適用を受ける場合、控除の対象となるのは、自宅として使用する部分の年末残高です。住宅ローン控除は、マイホーム購入者を対象とした制度であるため、事業用の部分については適用されません。そのため、住宅ローン控除の適用を受けたい場合は、居住用部分と事業に使用する分の面積に応じて家事按分比率を算出しなければなりません。
また、住宅ローン控除を適用するためには、床面積の1/2以上が居住用でなければならないというルールがあります。自宅兼事業所の半分以上の面積を事業用に使用する場合、住宅ローン控除の適用対象とはならない点に注意が必要です。なお、事業用の床面積割合が10%以下である場合には、全額を住宅ローン控除の対象に含めることが認められています。
自宅兼事業所で事業を営んでいる場合、家賃以外にも、家事按分によって経費計上できる支出があります。それぞれ、しっかりと家事按分比率を導き、事業で使用した分のみ経費に計上すると、課税所得額を圧縮できるため節税につながります。
水道料金、ガス料金、電気料金も事業で使用した分については、経費として計上することができます。専用の事業所がある場合には、事業所で使用した水道光熱費を全額経費に計上できますが、自宅兼事業所の場合は、事業で使用した分のみを家事按分し、経費に計上します。
飲食店や料理教室、クリーニングなど、水やガスをよく使用する事業を営んでいる場合には水道料金やガス料金の経費計上は可能です。しかし、事業で水やガスを使用しない場合、その料金を経費に計上することは難しいでしょう。
ただし、電気料金については、仕事をしている間の照明やパソコン、エアコンなどを稼働させるために必要です。家賃と同様に、仕事をしている時間の割合を算出して按分比率を出したり、家にあるコンセントの個数のうち、事業用として使用している個数から家事按分比率を算出するなどして経費計上をしましょう。
固定電話や携帯電話料金、インターネット回線の使用料など、通信にかかる費用も経費計上が可能です。事業専用の固定電話や携帯電話、インターネット回線がある場合には、全額を経費に計上できます。しかし、プライベートと事業用の固定電話や携帯電話を分けていない場合、自宅で同じインターネット回線を使用している場合は、家事按分によって事業に使用する分のみを計上します。
個人事業主は、事業所として使用している部分の家賃を経費に計上することが可能です。専用の事業所の場合は、家賃を全額経費に計上して問題ありませんが、自宅兼事業所として使用している場合は、事業所の使用割合に応じた経費計上が必要になります。家賃を経費として計上すれば、節税効果が高まりますが、明確な根拠をもとに按分比率を算出しない場合、税務調査時に指摘を受ける可能性が高くなるため注意が必要です。
法人の場合は、事業に使用しているかどうかに関わらず、自宅を社宅にすれば、自宅の家賃の一部も経費として計上することができます。事業が順調に成長し、一定以上の売上を得られるようになった場合は、法人化を検討してみてはいかがでしょうか。ただし、法人化を検討する場合には、家賃の面だけを捉えるのではなく、さまざまな面から慎重に検討することが大切です。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
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