メニュー
読了目安時間:約 6分
親族が亡くなり、相続が発生した際、相続額が一定以上となる場合は相続税の申告が必要になります。しかし、相続税が発生するのは親や配偶者が亡くなったときであるため、相続税の申告が必要かどうかは、どのように判断するのか把握していないケースも少なくありません。実は、相続税がかからない場合でも相続税の申告が必要なケースもあります。そのため、相続税の申告の必要性をしっかり理解しておかなければ、知らない間に相続税の申告を怠った状態となり、税務署から指摘を受ける恐れがあるのです。
そこで今回は、相続税の申告が必要になるケースについてご説明します。
目次
相続税を納めなければならないときは、当然、相続税についての申告が必要です。では、相続税の納税義務が生じるのはどのようなときでしょうか。
親や配偶者からお金や土地などの財産を相続した場合でも、必ず相続税の納税が必要になるわけではありません。相続税の納税と申告が必要になるのは、相続した財産の額から、債務や葬儀費用などを差し引いた残りの額が基礎控除を上回るときです。
相続税の基礎控除の額は、3,000万円+600万円×法定相続人の人数で算出します。
例えば、相続人が配偶者と子ども1人だった場合は、法定相続人は2人です。このとき、基礎控除の額は3,000万円+1,200万円=4,200万円となります。相続税の申告と納税が必要になるのは、相続財産の額から4,200万円と債務や葬儀代を差し引いた額(課税遺産総額)が、プラスになる場合となります。
また、相続人が子ども3人だった場合には、法定相続人は3人となり、このときの基礎控除の額は4,800万円です。したがって、相続財産額から4,800万円と債務・葬儀代を差し引いた額がマイナスになれば、相続税の申告と納税は必要ありません。
相続税は、相続が発生したことが分かった日から10ヶ月以内に相続税の申告をし、納税をしなければならないルールです。つまり、被相続人である配偶者や親が亡くなった日から10ヶ月以内に、申告をしなければならないということです。また、相続税の申告書を提出するのは、被相続人が亡くなったときの住所地を管轄する税務署となります。相続人である申告者の住所を管轄する税務署ではない点に注意が必要です。
相続税額は、相続税の総額を計算したうえで、各相続人の相続税額を算出します。
相続税の計算にあたっては、法定相続分について把握しておく必要があります。法定相続分は、民法で定められている相続人の相続分のことです。相続分は次のように決められています。
・相続人が配偶者のみの場合:配偶者が全財産を相続する
・相続人が子のみの場合:子が全財産を相続する
・相続人が配偶者と子が1人の場合:配偶者が1/2、子が1/2
・相続人が配偶者と子が2人の場合:配偶者が1/2,子がそれぞれ1/4
・相続人が配偶者と父母の場合:配偶者が2/3,父母が1/3を人数分で分割
・相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合:配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4を人数分で分割
相続税の税額を計算する際には、相続税の速算表を利用します。
相続税の速算表は次のように決められています。
<相続税の速算表>
出典:国税庁「No.4155 相続税の税率」
例えば、2億円の遺産を配偶者と子2人が法定相続分に則り相続した場合について計算をしてみます。
まず、この場合の基礎控除額は3,000万円+600万円×3人=4,800万円となります。2億円から基礎控除額を差し引いた課税遺産総額は1億5,200万円です。
このとき、配偶者の法定相続分は1/2、子どもの法定相続分は1/4ずつとなります。したがって、1億5,200万円を法定相続分で按分すると、配偶者の相続額は7,600万円、子の相続額はそれぞれ3,800万円となります。
相続税は、以下のように計算できます。
配偶者の場合:7,600万円×30%-700万円=1,580万円
子の場合:3,800万円×20%-200万円=560万円
相続税の総額:1,580万円+560万円×2人=2,700万円
さらに相続税の総額を実際の相続分で按分し、各人の相続額に各種控除額を適用して相続税額を算出することとなります。相続税の総額2,700万円を法定相続分で按分すると次のようになります。
配偶者の場合:2,700万円×1/2=1,350万円
子の場合:2,700万円×1/4=675万円
配偶者の場合、配偶者の税額軽減が適用されるため、実際の相続税の納付額は0円です。一方、特に控除が適用されない場合、子の相続税の納付額は675万円となります。しかし、控除を適用した場合に、相続税の納税が不要となった場合、相続税の申告が不要になるわけではないのです。特例の適用を受け、相続税が非課税になる場合は、相続税の納税をする必要はありませんが、相続税の申告をし、特例の適用を受けなければなりません。
相続税を納税する必要がない場合でも、相続税が軽減されたり、非課税となる特例を適用させる場合には、申告が必要となります。相続税がかからなくても申告が必要となる主な特例をご紹介します。
配偶者の税額軽減とは、被相続人の配偶者が財産を相続する場合に、相続財産の金額が1億6,000万円、または法定相続分のどちらか多い額までは相続税がかからないという制度です。先ほどの事例の配偶者の相続額は1億6,000万円以下であったため、相続税はかかりません。
また、相続遺産が5億円であった場合を考えてみましょう。このパターンで、子どもが2人いた場合、配偶者の法定相続分は、2億5,000万円です。相続額は1億6,000万円を超えていますが、法定相続分までは配偶者は相続税が非課税となるため、2億5,000万円までは配偶者が相続税を納める必要はありません。
配偶者の税額軽減の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
・戸籍上の配偶者である
・相続税の申告期限までに遺産分割の方法が決定している
・相続税の申告をしている
つまり、配偶者の税額軽減措置を適用させるためには、相続税の申告が条件の一つとなっているのです。
小規模宅地等の特例とは、被相続人が居住用や事業用として保有していた土地のうち、一定の要件を満たすものの場合、土地の評価額を最大80%減額し、相続税の納税額を軽減できる制度です。小規模宅地等の特例を利用できる主な宅地は「特定居住用宅地等」「特定事業用宅地等」「貸付事業用宅地等」の3つとなります。
まず、特定居住用宅地等とは、住んでいた土地のことです。具体的には、一軒家が建っている土地、購入したマンションが建っている土地、二世帯住宅が建っている土地の3つが該当します。
限度面積は330㎡で減額割合は80%となります。
土地を相続する人によって、特例が適用される要件は以下のように異なります。
被相続人の配偶者の場合
・要件は特にありません
被相続人と同居していた家族の場合
・被相続人と同居しており、相続税の申告期限までその家に住み、保有を続けていること
それ以外の親族の場合
・被相続人に配偶者がいない
・被相続人と同居している法定相続人がいない
・相続開始前の3年間に自分や配偶者、3親等以内の親族が所有する家に住んだことがない
・相続開始時にこの特例を受ける親族が住んでいた家を所有していたことがない
・相続税申告の期限までその土地を所有し続けている
特定事業用宅地等とは、被相続人が個人事業のために使用していた土地、または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業のために使用していた土地のことです。具体的には、被相続人が事業に使っていた土地である、工場や事務所、店舗などが建つ土地が対象となります。特定事業用宅地等の限度面積は400㎡、減額割合は80%です。
特定事業用土地として小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、以下の条件を満たさなければなりません。
被相続人の事業に使用していた土地の場合
・被相続人が営んでいる事業を相続税の申告期限までに引継ぎ、申告期限まで土地のうえでその事業を営んでいる
・その土地を相続税の申告期限まで保有している
被相続人と生計を一にしていた親族の事業に使用していた土地の場合
・相続開始の直前から相続税の申告期限まで、土地のうえで事業を営んでいる
ただし、事業が不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業に該当するものの場合、この特例は適用されません。また、相続開始前3年以内に新たに事業のために使用された土地についても適用されない点に注意が必要です。
被相続人が、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、またそれに準ずる事業を営んでいた土地が対象となります。貸付事業用宅地等の限度面積は200㎡、減額割合は50%です。特例を適用させるためには、以下の要件を満たさなければなりません。
また、特定事業用宅地等と同じく、相続開始前3年以内に新たに事業のために使用された土地については、適用されません。
小規模宅地等の特例を受けると、減額割合が大きいために、相続税の納税は不要となるケースがあります。しかし、この特例を適用させるためには申告が必要です。また、小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、申告書に特例の適用を受けようとする旨を記載し、小規模宅地等にかかる計算の明細書や遺産分割協議書の写しなどを添付しなければなりません。
さらに、特例の対象となる宅地を取得した相続人が複数いる場合は、全員がこの特例の適用に同意し、相続税の申告期限までに分割されていることが条件となります。
相続税の申告期限までに、相続財産を国や地方公共団体、公益事業を行う特定の法人、認定NPO法人に寄附した場合、寄附をした財産は相続税の対象外となります。対象となる寄附先は以下のとおりです。
・独立行政法人
・国立大学法人及び大学共同利用機関法人
・地方独立行政法人で地方独立行政法人法に掲げる一定の業務を主たる目的とするもの
・公立大学法人
・国立健康危機管理研究機構、自動車安全運転センター、日本司法支援センター、日本私立学校振興・共済事業団、日本赤十字社および福島国際研究教育機構
・公益社団法人および公益財団法人
・私立学校法第3条に規定する学校法人で学校及び専修学校を設置するもの、私立学校法第152条第5項の規定により設立された法人で専修学校を設置するもの
・社会福祉法人
・更生保護法人
・認定NPO法人
公益法人などに寄附をした場合の特例を受けるためには、寄附の明細書などの書類を添付したうえで、相続税の申告をしなければなりません。また、必要な書類は、寄附先の法人によって変わる点に注意が必要です。
相続額が、基礎控除額を差し引いた額を上回っている場合、相続税の申告が必要になります。財産を相続した場合は、まず、基礎控除額を算出したうえで、相続税の納税が必要になるかを把握することが大切です。しかし、今回ご紹介したような相続税の軽減または免除を受けられる特例を適用する場合は、相続税の納税は不要であっても相続税の申告が必要になるケースもあります。特例の適用を希望する場合には、忘れずに申告を行うようにしましょう。
-免責事項-
当ブログのコンテンツ・情報について、できる限り正確な情報を提供するように努めておりますが、正確性や安全性を保証するものではありません。内容は記事作成時点の法律に基づいています。当サイトに掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者16万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在14名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
税理士法人松本は国税OB・元税務署長が所属する税理士法人です。
全国からの税務調査相談実績 年間1,000件以上
税理士法人松本の強み
30秒で完了かんたん税務調査リスク診断
←前の記事
相続税は自分で申告できる?必要書類や手順を分かりやすく解説
あわせて読みたい記事
税務調査
税務調査は対応次第で結果が大きく変わります!
専門家があなたの税務調査に関する不安を一つ一つ丁寧に解決。初回有料相談は返金保証付きで、どんな小さなご相談も全国から承ります。