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農業を営んでいる方のなかには、「白色申告はどう進めればよい?」「どこまで経費にできる?」と疑問に感じる方もいるでしょう。
白色申告は青色申告より記帳方法が簡易ですが、帳簿の作成や保存は必要です。また、農産物の販売収入だけでなく、自家消費や補助金、必要経費なども正しく整理しなければなりません。
この記事では、農業の白色申告の方法や必要書類、収入・経費の考え方、税務調査に備えるポイントを解説します。
目次
白色申告とは、青色申告の承認を受けていない個人事業主が行う確定申告です。
個人が事業として農業を営んで得た所得は、原則として事業所得のうち「農業所得」に該当します。
農業所得は、基本的に以下の計算式で求めます。
白色申告を行う農業者は、1年間の収入や必要経費を集計し、「収支内訳書(農業所得用)」と確定申告書を作成して申告します。
白色申告と青色申告では、事前手続きや提出書類、利用できる税制上の特典などが異なります。
主な違いは以下のとおりです。
青色申告には税制上のメリットがありますが、事前に青色申告承認申請書を提出する必要があります。
一方、白色申告は事前申請が原則不要であり、比較的簡易な方法で記帳できることが特徴です。
「白色申告なら帳簿を作らなくてもよい」と考えている方もいるかもしれませんが、現在は白色申告者にも記帳・帳簿保存が義務付けられています。
事業所得がある方は、所得税の確定申告が不要な場合であっても、原則として収入や必要経費を記帳しなければなりません。
主な保存期間は以下のとおりです。
農業では現金販売や自家消費など、通帳だけでは確認できない取引もあります。
申告直前になってから1年分をまとめるのではなく、日ごろから記帳することが大切です。
【出典元】 国税庁|白色申告者の記帳・帳簿等保存制度
農業を営んでいるからといって、すべての方に所得税の確定申告が必要になるわけではありません。
専業農家と会社員などをしながら農業を行う兼業農家では、申告の要否を判断する基準も異なります。
農業以外に所得がない方などは、農業所得を含む各種所得から基礎控除や社会保険料控除、扶養控除などの所得控除を差し引き、所得税額が発生するかを確認します。
単純に「農業の売上が○万円を超えたら確定申告が必要」と判断するわけではありません。
たとえば農産物の売上が500万円あっても、必要経費が350万円であれば農業所得は150万円です。
さらに所得控除を差し引いて課税所得と所得税額を計算します。
利用できる所得控除は人によって異なるため、農業所得だけで申告の要否を判断しないことが重要です。
会社員として働きながら農業を行っている場合には、「20万円」が一つの目安となります。
たとえば、給与収入が2,000万円以下で、1か所から給与を受け取り、その給与の全部が源泉徴収の対象となる一般的な給与所得者の場合、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超えると、原則として確定申告が必要です。
ここでいう20万円は「農業の売上」ではなく「所得」である点に注意しましょう。
農業による収入が100万円、必要経費が75万円であれば、農業所得は25万円となります。
また、農業以外にも副業所得などがある場合は、それらを含めて20万円を超えるか確認します。
なお、医療費控除などを受けるために確定申告する場合は、20万円以下の農業所得も含めて申告する必要があります。
【出典元】 国税庁|給与所得者で確定申告が必要な人
給与所得者の農業所得などが20万円以下で所得税の確定申告が不要になったとしても、住民税の申告まで不要になるとは限りません。
所得税にある「20万円以下なら確定申告不要」という制度は、そのまま住民税に適用されるものではないためです。
所得税の確定申告を行えば、その情報は自治体にも送られるため、通常は別途住民税を申告する必要はありません。
一方、所得税の確定申告をしない場合は、市区町村への住民税申告が必要になることがあります。具体的な取扱いは住所地の自治体へ確認しましょう。
農業所得の収入には、農産物を販売して受け取った代金だけでなく、自家消費や農業に関連する補助金なども含まれます。
特に現金を受け取らない取引は計上漏れが起こりやすいため注意が必要です。
米、野菜、果物、花、畜産物などを販売して得た代金は、農業の販売収入として計上します。
JAへの出荷だけでなく、以下のような売上も忘れずに集計しましょう。
JAや直売所から販売手数料が差し引かれて入金される場合にも注意が必要です。
たとえば販売代金が100万円で、販売手数料10万円を差し引いた90万円が振り込まれた場合は、原則として販売金額100万円を収入とし、販売手数料10万円を必要経費として処理します。
自分で生産した米や野菜などの棚卸資産を家族で消費した場合は「家事消費」、知人などへ無償で渡した場合は「贈与」などとして、いずれも「家事消費等」の収入金額に含める必要があります。
現金を受け取っていなくても、原則として通常の販売価額を基準に収入金額を計算します。一定の要件を満たす場合には、取得価額などを基準として計算できる取扱いもあります。
また、農業経営に関連して受け取った以下のような金銭も、内容に応じて雑収入などとして計上します。
しかし、補助金や共済金は制度によって税務上の取扱いが異なる場合があります。名称だけで判断せず、交付決定通知書や支払通知書などを確認しましょう。
【出典元】 国税庁|家事消費とは
年末時点で販売せずに保有している農産物がある場合は、棚卸しを行います。
収支内訳書(農業所得用)には「農産物の棚卸高」の欄があり、期首棚卸高と期末棚卸高を記載します。
たとえば、12月31日時点で倉庫に保管している販売用の米などがあれば、数量や単価を確認して棚卸表を作成しておきます。
棚卸しを行わず、仕入れや生産にかかった費用だけを経費にすると、その年の所得が正しく計算できない場合があります。年末には品目、数量、単価、金額などを確認し、計算根拠も残しておきましょう。
農業所得を計算する際は、農業による収入を得るために直接必要となった費用を必要経費として差し引けます。
一方、生活費など農業と関係のない支出は経費にできません。
農産物を生産するために購入した種や苗は「種苗費」、肥料は「肥料費」、農薬や共同防除にかかった費用などは「農薬衛生費」として処理します。
農業で使用したことがわかるよう、購入先や購入日、金額、内容を確認できる領収書や請求書を保存しておきましょう。
また、年末時点で多くの資材が未使用のまま残っている場合などは、棚卸しとの関係にも注意が必要です。
鎌や鍬など、使用可能期間が1年未満または取得価額が10万円未満の農具は、原則として「農具費」などで必要経費にできます。
一方、トラクターやコンバインなど、取得価額が10万円以上で長期間使用する農機具は、原則として固定資産として計上し、耐用年数に応じて減価償却します。
農機具や農業施設を通常の状態へ戻すための修理費は「修繕費」として経費にできることがあります。
しかし、性能を大幅に向上させたり耐用年数を延ばしたりする支出は、資本的支出として減価償却が必要になる場合があります。
農業で使用した電気、水道、ガス、ガソリン、軽油などは「動力光熱費」などとして必要経費にできます。
農地を借りている場合の小作料や、農業用施設・農機具などの賃借料も対象です。
しかし、自宅の電気代や自家用車のガソリン代など、私生活と農業の両方に利用している費用については、全額を経費にすることはできません。
農業に使用した部分を合理的に区分する必要があります。
トラクターや農業用車両、倉庫、農業施設など、長期間使用する資産は、原則として購入代金を一度に経費とせず、耐用年数に応じて減価償却します。
また、自宅兼農業事務所や農業と私用の両方で使用する車両などの費用は「家事関連費」となります。
事業に使用した部分を明確に区分できる場合は、その部分を必要経費にできます。
たとえば、以下のような基準で家事按分します。
税務調査などで説明できるよう、按分割合だけでなく計算根拠も保存しておくことが重要です。
白色申告では、生計を一にする配偶者や親族へ支払った給与を、そのまま必要経費にすることは原則できません。
しかし、一定の要件を満たす家族が農業に専ら従事している場合は「事業専従者控除」を利用できます。
控除額は、次の金額と「事業専従者控除前の事業所得等÷(専従者の数+1)」で計算した金額のいずれか低い金額です。
事業専従者は、白色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族で、原則としてその年の12月31日時点で15歳以上であり、その年を通じて6か月を超える期間、事業に専ら従事していることなどが必要です。
なお、白色事業専従者となった方は、その事業主の控除対象配偶者や扶養親族にはなれません。
【出典元】 国税庁|青色事業専従者給与と事業専従者控除
白色申告では、1年間の売上や経費を整理したうえで、収支内訳書と確定申告書を作成します。
確定申告直前に慌てないためにも、日ごろから資料を整理しておきましょう。
まずは、1月1日から12月31日までの農業に関する資料を集めます。
主に以下の資料を確認しましょう。
特に現金売上や家事消費は通帳に記録が残らないため、日常的に記録しておくことが重要です。
白色申告を行う農業者は「収支内訳書(農業所得用)」を作成します。
一般の事業所得用とは別に農業所得専用の様式があるため、間違えないようにしましょう。
収支内訳書には、主に以下の内容を記載します。
収支内訳書で農業所得を計算した後、その金額を確定申告書の「農業」の欄に反映します。
所得税の確定申告期間は、原則として翌年2月16日から3月15日までです。
期限が土曜日・日曜日・祝日などの場合は翌開庁日となります。
2025年分の所得税および復興特別所得税の確定申告・納付期限は2026年3月16日でした。
2026年分については、2027年3月15日が確定申告・納付期限となります。
申告書は税務署への持参や郵送のほか、e-Taxを利用して提出することも可能です。
期限後申告になると、状況によって無申告加算税や延滞税などが発生する可能性があるため、余裕を持って準備しましょう。
【出典元】 国税庁|主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日
白色申告であっても、税務署から申告内容について確認を求められたり、税務調査が行われたりする可能性があります。
農業では現金販売や自家消費、棚卸し、家事按分など、計算根拠を残しておくことが特に重要です。
JAへの出荷額だけを農業収入として計上しないよう注意しましょう。
以下のような収入に漏れがないか確認します。
売上の経路が複数ある場合は、販売先ごとに記録を分けておくと確認しやすくなります。
農業に関係のない生活費や個人的な買い物は、必要経費にはできません。
また、自家用車や自宅、スマートフォンなどを農業と私生活の両方で使っている場合は、農業に使用した部分だけを合理的に按分します。
単に「70%くらい農業で使っていると思う」といった判断ではなく、走行距離や使用時間、床面積など、説明できる根拠を残しておきましょう。
年末の農産物を棚卸しせず、農機具を購入した年にすべて経費計上するなどの処理をすると、所得が正しく計算されない可能性があります。
12月31日時点の在庫を確認するとともに、農機具や設備を購入した場合は、取得価額や使用可能期間を確認して減価償却が必要か判断します。
農業特有の棚卸しや育成費用など、処理が複雑なものについては、国税庁の手引きを確認するか税理士へ相談すると安心です。
白色申告でも、法定帳簿は7年間、領収書や請求書などは原則として5年間保存する必要があります。
税務調査では、申告書に記載された数字だけでなく、その金額をどのように計算したのか確認されることがあります。
帳簿とあわせて、JAの精算書、領収書、請求書、棚卸表、補助金の通知書、家事按分の計算資料なども整理して保存しておきましょう。
2025年から2026年にかけては、所得税の基礎控除などに改正が行われています。
過去の確定申告で使用した金額をそのまま使わないよう注意が必要です。
2025年分から所得税の基礎控除が見直され、さらに2026年度税制改正によって2026年分の基礎控除も引き上げられています。
居住者に適用される主な金額は以下のとおりです。
たとえば、2026年分では、居住者で合計所得金額が489万円以下であれば、基礎控除は104万円です。
そのため、以前の「基礎控除48万円」という情報をもとに確定申告の必要性を判断しないよう注意しましょう。
なお、2026年度税制改正による基礎控除の引上げは、原則として2026年12月1日に施行され、2026年分以後の所得税に適用されます。
2026年11月30日以前に、死亡や出国に伴って2026年分の準確定申告書を提出する場合は、改正前の基礎控除額が適用されます。該当する場合は、国税庁の案内で適用関係を確認しましょう。
なお、実際に確定申告が必要かどうかは基礎控除だけではなく、社会保険料控除や扶養控除なども含めて判断します。
【出典元】 国税庁|基礎控除
国税庁|令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について
2025年1月から、税務署では申告書や届出書などの控えに収受日付印を押さない取扱いとなっています。
書面で確定申告書を提出する場合も、以前のように提出用と控えを税務署へ提出し、控えに収受印を押してもらうことはできません。
必要に応じて自分で申告書の控えを保存し、提出年月日も記録しておきましょう。
申告した事実や提出日を管理しやすくするという点では、e-Taxによる電子申告を利用する方法もあります。
農業の白色申告では、販売収入だけでなく、自家消費や補助金、棚卸し、必要経費などを正しく処理する必要があります。
特に、農機具の減価償却や家事按分、事業専従者控除などは判断に迷いやすい項目です。
申告漏れや経費計上に不安がある場合や、税務調査の連絡を受けた場合は、早めに税理士へ相談しましょう。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者30万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在15名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
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