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農業による所得は、原則として事業所得に該当します。農産物の販売代金だけでなく、農作業の受託料や補助金・共済金、家庭で消費した農産物なども、内容に応じて収入として計上します。
また、肥料代や農薬代、農機具など、農業に必要な支出は経費にできます。ただし、自宅や車両を私生活でも利用する場合は、事業分を家事按分する必要があります。
この記事では、農業で確定申告が必要になるケースや収入・経費の考え方、青色申告と白色申告の違い、棚卸し、2025年〜2026年の税制改正について解説します。
目次
農業を営んでいるからといって、必ず所得税の確定申告が必要になるわけではありません。
確定申告が必要かどうかは、単純な「売上額」だけではなく、農業による収入から必要経費を差し引いた所得や、ほかの所得、所得控除などを踏まえて判断します。
専業農家と会社員などをしながら農業を行う兼業農家では、確認すべき基準も異なります。
個人が事業として農業を営んで得た所得は、原則として事業所得に該当します。農業所得は、基本的に以下のように計算します。
たとえば、農産物の年間売上が600万円あり、肥料代や農薬代、人件費、減価償却費などの必要経費が400万円であれば、農業所得は200万円です。
所得税はこの200万円だけで決まるわけではなく、基礎控除や社会保険料控除、扶養控除などの所得控除を差し引き、最終的な課税所得や税額を計算します。
そのため、「売上が100万円を超えたら確定申告が必要」など、売上だけで判断しないようにしましょう。
農業以外に所得がない専業農家の場合は、農業所得から各種所得控除を差し引き、所得税額が生じるかどうかなどを確認します。
2026年分の所得税では基礎控除が改正され、合計所得金額489万円以下の居住者については基礎控除額が104万円となっています。ただし、確定申告の必要性は基礎控除だけで決まるものではありません。
社会保険料控除や生命保険料控除、扶養控除など、利用できる所得控除は人によって異なるためです。
一方、会社員として給与を受け取りながら農業を行っている場合は、給与収入や給与の支払先などによって確定申告の要否が異なります。
たとえば、給与収入が2,000万円以下で、原則として1か所から給与を受け、その給与が源泉徴収の対象となっている給与所得者の場合、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超えると、原則として所得税の確定申告が必要です。
たとえば、勤務先で年末調整を受けている会社員が副業として農業を行い、農業所得が年間30万円となった場合は、確定申告が必要になる可能性があります。
なお、農業所得が20万円以下で所得税の確定申告が不要となる場合でも、住民税の申告が必要になることがあるため注意しましょう。
【出典元】 国税庁|令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について 財務省|令和8年度税制改正の大綱(1/9)
農業所得が赤字の場合、所得税の納付が発生しないこともあります。しかし、赤字だからといって確定申告をしなくてよいとは限りません。
青色申告をしている場合、一定の要件を満たすことで純損失を翌年以後3年間繰り越せます。翌年以後に農業で利益が出た場合、繰り越した赤字と相殺することで税負担を抑えられる可能性があります。
また、事業所得の損失について、ほかの一定の所得と損益通算できるケースもあります。赤字の取扱いは所得の種類や発生原因によって異なるため、「税金が発生しないから申告しない」と判断するのではなく、青色申告の特典を利用できるか確認しておきましょう。
農業の確定申告では、農産物を販売して受け取った金額だけを収入にするわけではありません。
農作業の受託料や農業に関連する補助金などに加え、自分で作った農産物を家庭で消費した場合も収入として処理することがあります。主な収入を整理すると、次のとおりです。
米、野菜、果物、花、畜産物などを販売した代金は、農業の代表的な収入です。
販売先はJAだけとは限りません。市場への出荷、スーパーへの卸売り、直売所、道の駅、インターネット販売、農園での直接販売なども含めて集計します。
特に注意したいのが、JAや直売所などから販売手数料が差し引かれて入金されるケースです。たとえば、販売代金が100万円で販売手数料10万円が差し引かれ、90万円が振り込まれた場合、原則として売上を90万円とするのではなく、販売代金100万円を収入として計上し、10万円を販売手数料などの必要経費として処理します。
通帳への入金額だけで売上を集計すると、売上と経費の双方が少なく計上される可能性があるため、精算書や販売明細を確認しましょう。また、自分の農機具などを使って他の農家の田植え、稲刈り、収穫などを請け負い、作業料を受け取った場合も、農業に関連する収入として記録する必要があります。
農業では、国や自治体などから補助金・交付金を受け取ったり、災害や収量減少などによって共済金を受け取ったりすることがあります。農業経営に関連して受け取る補助金、奨励金、共済金などは、内容に応じて農業所得の収入として処理する必要があります。
しかし、補助金には税務上の取扱いが異なるものもあるため、名称だけで判断せず、交付要綱や通知書などを確認することが大切です。さらに、農業特有の注意点となるのが「家事消費」です。
自分で生産した米や野菜を家族で食べたり、知人などに無償で渡したりした場合、現金を受け取っていなくても、一定の金額を収入に計上する必要があります。
「販売していないから売上ではない」と考えて記録を残さないと、確定申告時に家事消費分を把握できなくなる可能性があります。収穫量や家事消費した数量などを日ごろから記録しておくと、申告時の計算がしやすくなります。
農業所得を計算するときは、農業による収入を得るために必要となった支出を必要経費として差し引けます。
農業では、種苗や肥料だけでなく、農機具、燃料、農地の賃借料、農業共済掛金などさまざまな費用が発生します。主な経費は以下のとおりです。
農作物を生産するために購入した種や苗、肥料、農薬などは、農業に直接必要な費用として経費にできます。畜産農家の場合は、家畜の飼料代なども対象です。
しかし、購入したものすべてが必ずその年の必要経費になるとは限りません。年末時点で未使用の資材を多く保有している場合などは、棚卸しが必要になることがあります。
購入日、購入先、金額、内容が確認できるよう、領収書や請求書を保存しておきましょう。
農業では、自家用車を農作業や出荷にも使ったり、自宅の一部を事務所や農作業用スペースとして使ったりすることがあります。
このように事業と私生活の両方に関係する費用は、全額を必要経費にするのではなく、農業に使用した分を合理的な基準で分ける必要があります。
これを「家事按分」といいます。たとえば、次のような基準が考えられます。
重要なのは、毎年都合よく割合を変えるのではなく、第三者に説明できる基準で継続して計算することです。走行記録や図面、使用時間など、按分割合を判断した根拠も残しておきましょう。
トラクターやコンバイン、農業用車両、農業施設など、長期間使用する高額な資産は、購入した年に全額を経費にできないことがあります。
原則として、取得価額を資産として計上し、定められた耐用年数に応じて毎年「減価償却費」として必要経費にします。一方、一定金額未満の資産には、その年に必要経費にできる制度や、3年間で均等に経費化する一括償却資産の制度などがあります。
さらに、一定の青色申告者が利用できる少額減価償却資産の特例もあります。農機具は1台あたりの金額が大きくなりやすいため、購入時には「その年に全額経費にできるのか」「減価償却が必要なのか」を確認しましょう。
正確に確定申告をするためには、1年間の取引を帳簿に記録しておく必要があります。白色申告であっても記帳や帳簿・書類の保存は必要です。
農業の場合は販売先や販売方法が複数になりやすいため、確定申告直前に通帳だけを見て集計するのではなく、日ごろから記帳することが重要です。
農産物の売上は、JAへの出荷だけでなく、直売所、市場、スーパー、インターネット販売、現金販売なども含めて記録します。
特に現金販売は通帳に入金記録が残らないことがあるため、売上台帳などを作成して管理するとよいでしょう。売上の記録には、少なくとも次のような項目を残しておくと管理しやすくなります。
JAや直売所から交付される精算書、売上明細書、振込通知書なども帳簿と合わせて保存しておきましょう。
農業の確定申告では、年末時点で保有している農産物や資材などについて棚卸しが必要になる場合があります。棚卸しとは、12月31日時点で保有している在庫の数量や金額を確認する作業です。
農産物だけでなく、肥料や農薬などについても、その年の経費との対応を確認する必要があります。棚卸しを行う際は、品目、数量、単価、金額などを記載した棚卸表を作成しておくとよいでしょう。
また、農業には農産物の収穫時期や家畜・果樹などの育成に関する独自の会計処理があります。判断に迷う場合は、国税庁の農業所得用の手引きなどを確認するか、税理士に相談しましょう。
請求書や領収書だけでなく、以下の資料も整理して保存しておくことが重要です。
個人で農業を営む場合、確定申告には白色申告と青色申告があります。青色申告には税制上の特典がありますが、事前の申請や一定の記帳が必要です。
事業規模や経理体制などを踏まえて、自分に適した方法を選びましょう。
白色申告をする農業者は、「収支内訳書(農業所得用)」を作成します。収支内訳書には、販売金額、家事消費、雑収入、農産物の棚卸高、種苗費、肥料費、農薬費、減価償却費などを記載します。
一般的な事業で使用する収支内訳書とは別に農業所得用の様式が用意されているため、農業所得用を使用しましょう。
白色申告は青色申告と比べて簡易な方法で記帳できますが、白色申告だから帳簿を作らなくてよいわけではありません。日々の収入と経費を記録し、帳簿や領収書などを法定期間保存する必要があります。
青色申告をする場合は、「青色申告決算書(農業所得用)」を作成します。2026年分までは、一定の要件を満たすことで青色申告特別控除として最高65万円、55万円または10万円の控除を受けられます。
最高65万円の控除を受ける場合は、複式簿記による記帳などの要件に加えて、e-Taxによる申告または一定の電子帳簿保存が必要です。青色申告には、ほかにも次のようなメリットがあります。
青色申告を始めるためには、原則として事前に「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
これから農業を始める場合や、白色申告から青色申告へ切り替える場合は、提出期限を確認して早めに準備しましょう。
所得税の確定申告期間は、原則として翌年2月16日から3月15日までです。3月15日が土曜日、日曜日、祝日などに当たる場合は、原則として翌開庁日が期限となります。
確定申告書は、税務署へ持参・郵送する方法のほか、e-Taxを利用してオンラインで提出することもできます。期限を過ぎてから申告した場合には、本来納める税額に加えて無申告加算税や延滞税などが生じる可能性があります。
特に青色申告特別控除のうち55万円・65万円の控除では期限内申告が要件となるため、早めに決算作業を進めましょう。
【出典元】 国税庁|記帳や帳簿等保存・青色申告 国税庁|No.2072 青色申告特別控除
2025年から2026年にかけて、所得税の基礎控除や青色申告、少額減価償却資産、インボイス制度などに改正が行われています。
農業を営む個人事業主にも関係するため、過去と同じ金額やルールで申告しないよう注意が必要です。
2025年分の所得税から基礎控除が見直され、合計所得金額に応じて控除額が引き上げられました。さらに2026年度税制改正によって、2026年分以後の基礎控除が改正されています。
たとえば、2026年分・2027年分について合計所得金額489万円以下の居住者は、基礎控除額が104万円となります。そのため、専業農家が確定申告の必要性を判断するときも、過去の「48万円」などの基準をそのまま使用しないよう注意しましょう。
また、2026年度税制改正では青色申告特別控除も見直されています。ただし、青色申告特別控除の大きな変更は2027年分以後の所得税から適用されるため、2026年分の確定申告では従来の65万円・55万円・10万円の仕組みが基本です。
2027年分以後は、青色申告特別控除の仕組みが見直されます。正規の簿記の原則による記帳などの要件を満たしたうえで、確定申告書や貸借対照表、損益計算書などを期限内にe-Taxで提出する場合は、65万円の控除を受けられます。
さらに、仕訳帳・総勘定元帳について一定の電子帳簿保存を行うなど、追加の要件を満たす場合は最高75万円の控除を受けられます。
今後も青色申告を利用する場合は、e-Taxや電子帳簿への対応を検討しておくとよいでしょう。
【出典元】 国税庁|No.2072 青色申告特別控除
2026年度税制改正では、中小事業者の少額減価償却資産の特例について、対象となる資産の取得価額基準が30万円未満から40万円未満へ引き上げられました。
この特例は、一定の中小事業者に該当する青色申告者が対象です。2026年4月1日以後に取得等する資産について新しい基準が適用され、一定の要件を満たせば取得価額をその年の必要経費に算入できます。ただし、この特例を適用できる少額減価償却資産の取得価額の合計額は、年間300万円が上限です。
農業では農機具や設備を購入する機会が多いため、購入時期と取得価額を確認して処理しましょう。
また、インボイス制度への登録をきっかけに免税事業者から課税事業者となった方が利用できる「2割特例」は、2026年9月30日までの日の属する課税期間をもって終了します。
個人事業者については一定の要件を満たす場合、2027年分・2028年分の消費税について、納付税額を売上税額の3割とする「3割特例」が設けられています。さらに、インボイス発行事業者以外からの課税仕入れについて仕入税額控除を認める経過措置も、2026年10月以後は控除できる割合が変わります。
農業では資材の購入先や取引先が免税事業者であるケースも考えられるため、自分が消費税の課税事業者である場合は、所得税だけでなくインボイス制度の変更も確認しておきましょう。
【出典元】 財務省|令和8年度税制改正の大綱(3/9) 国税庁|令和8年度 法人税関係法令の改正の概要
農業の確定申告では、現金売上、家事消費、補助金、棚卸し、家事按分など、金額を正確に把握するために日々の記録が重要となる項目が多くあります。
申告後に税務署から確認を求められた場合でも、帳簿や資料から計算根拠を説明できる状態にしておくことが大切です。
税務調査に備えるうえで、まず確認したいのが収入の計上漏れです。JAへの出荷額だけでなく、直売所、現金販売、インターネット販売などを含め、すべての販売方法を確認しましょう。
また、農業では家事消費や補助金など、銀行口座への通常の売上入金だけを確認していても把握できない収入があります。特に次の項目は、確定申告前に確認しておくことが重要です。
複数の口座を利用している場合は、事業用口座を決めておくと入出金を把握しやすくなります。
棚卸高や家事按分は、単に金額を申告書へ記載するだけでなく、「どのように計算したのか」を説明できることが重要です。
たとえば、年末の農産物の在庫については、棚卸表に数量や単価を記録しておきます。車両費を70%経費にしているのであれば、農作業・出荷で使用した走行距離など、70%と判断した根拠を残しておきましょう。
自宅の電気代や固定資産税などを按分する場合も、床面積や使用時間など一定の基準を用います。毎年異なる割合を根拠なく使用すると説明が難しくなるため、合理的な方法を継続して適用することが大切です。
申告内容に誤りがあり、本来より税額が少なかった場合には、原則として修正申告などの対応が必要です。
また、そもそも確定申告をしていなかった場合には、期限後申告が必要になることがあります。そのまま放置すると、税務署から指摘を受けた際に本来の税金だけでなく、加算税や延滞税が発生する可能性があります。
過去数年分の資料が整理できていない場合でも、通帳、JAの精算書、領収書、請求書、補助金の通知書など、手元に残っている資料から整理できる場合があります。
申告漏れや無申告に気づいた場合は、そのままにせず、できるだけ早い段階で税理士へ相談するとよいでしょう。
農業の確定申告では、農産物の販売代金だけでなく、農作業の受託料、補助金、共済金、家事消費なども収入として確認する必要があります。
種苗費や肥料費、農薬費、農機具、燃料費などは必要経費にできますが、自宅や車両を私生活でも利用している場合は、合理的な基準で家事按分します。
また、棚卸しや農機具の減価償却など、農業特有の処理にも注意が必要です。申告時の計上漏れを防ぐため、JAの精算書や領収書、補助金の通知書などを日ごろから整理しておきましょう。
税理士法人松本では、農業所得の確定申告や申告漏れ、税務調査などのご相談に対応しています。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者30万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在15名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
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