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確定申告では、農業収入を得るために必要な支出を経費にできます。しかし、作業中の飲み物や農業と私生活の両方で使う車など、経費にできるか判断に迷うケースもあります。
また、トラクターやコンバインなどの高額な農機具は、原則として減価償却が必要です。年末に残る肥料や農薬についても、棚卸しが必要になる場合があります。農業の経費は、領収書を保管するだけでなく、農業との関係や使用状況を説明できるようにしておくことが大切です。
この記事では、農業の確定申告で経費にできるものや主な勘定科目、減価償却、年末処理、注意点について解説します。
目次
農業で支払った費用がすべて経費になるわけではありません。
基本的には、農業による収入を得るために必要な支出であることが重要です。生活費などの私的な支出が含まれている場合は、その部分を除外しなければなりません。
農業所得を計算する際は、農業による収入から必要経費を差し引きます。経費として認められるのは、農産物の生産や販売など、農業経営に必要な支出です。
たとえば、次のような費用が挙げられます。
重要なのは、「農業を行うために必要だった支出かどうか」です。同じ商品を購入した場合でも、農業用に使用したものは経費になりますが、家庭で使用したものは原則として経費にはなりません。
個人農家の場合、自宅と農場が同じ敷地にあったり、自家用車を農作業にも使用したりすることがあります。このような場合、支払った金額をそのまま全額経費にすることはできません。
たとえば、自宅の電気代が年間30万円あり、そのうち農業用倉庫や作業場で使用した割合が30%であれば、合理的な根拠があることを前提に、農業で使用した部分を経費として計上します。
このように事業用と私用が混在する支出を分けることを「家事按分」といいます。家事按分を行う場合は、床面積、使用時間、走行距離、使用回数など、実際の利用状況に合った基準を設定しておきましょう。
農業では、一般的な事業とは異なる勘定科目が多く使われます。主な勘定科目と具体例を整理すると、次のようになります。
勘定科目の名称だけにこだわるのではなく、何に使った費用なのかを継続して同じ基準で処理することが大切です。
種子や苗、種芋などの購入費は「種苗費」として処理します。肥料や堆肥などは「肥料費」、農薬や除草剤、共同防除にかかる負担金などは「農薬衛生費」が一般的です。畜産農家の場合、牛や豚、鶏などに与える飼料は「飼料費」として処理します。
これらは農業で頻繁に発生する代表的な経費です。しかし、年末時点で未使用の肥料や農薬などが大量に残っている場合、購入した金額をすべてその年の経費とするのではなく、棚卸資産として年末処理が必要になることがあります。
鎌、鍬、スコップ、ホース、一輪車などの少額な農具は、「農具費」などで処理します。トラクターや草刈機、乾燥機などで使用するガソリン・軽油・灯油、農業用ハウスや倉庫の電気代などは「動力光熱費」として処理するのが一般的です。
軽トラックなど農業用車両にかかるガソリン代、車検費用、保険料、修理代などは、それぞれ支出内容に応じた勘定科目を使います。管理しやすくするために「車両費」などの補助科目を設けてもよいでしょう。
故障した農機具を元の状態に戻すための通常の修理費は、原則として「修繕費」にできます。
他人が所有する農地を借りて農業を行っている場合の小作料や、農機具・倉庫などを借りた場合の賃借料も経費になります。農業用水を利用するための水利費、農業用水路や農地の整備に関する負担金なども、農業経営に必要な支出であれば経費の対象になります。
ただし、土地改良に関する支出は内容によって取扱いが異なります。支出によって土地や設備の価値が大きく増加する場合などは、支払った年に全額を経費にできないこともあります。
高額な土地改良工事や設備整備を行った場合は、支出内容を確認して処理しましょう。
農作業を行う従業員やアルバイトに支払った給与は「雇人費」などとして経費にできます。
一方、田植えや収穫、耕起、機械作業などを外部の事業者へ委託した場合は、「外注工賃」などで処理します。家族への給与は通常の従業員への給与とは取扱いが異なります。
青色申告者の場合、一定の要件を満たし、「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出している場合には、適正な金額の専従者給与を必要経費にできます。
白色申告の場合は、家族に支払った給与をそのまま必要経費にする仕組みではなく、要件を満たせば事業専従者控除を利用できます。
農産物を出荷するための段ボール、梱包資材、運賃などは「荷造運賃手数料」などとして処理します。
JAや市場、直売サイトなどを通して販売した場合に差し引かれる販売手数料についても、農産物の販売に必要な費用として経費にできます。農作物などに関する農業共済の掛金も、事業に関係する部分は経費の対象です。
JAの精算書では、販売代金から販売手数料や運賃などが差し引かれて振り込まれることがあります。入金額だけを売上として記帳すると売上と経費の両方が少なく計上される可能性があるため、明細を確認しましょう。
農業では、仕事と日常生活の境界が分かりにくい支出も多くあります。
「農作業中に使ったから」という理由だけで経費になるわけではありません。支出の目的や利用者、事業との関係を確認することが重要です。
事業主本人の通常の食事や日常的な飲み物、おやつは、原則として生活費に該当するため、経費にすることはできません。
一方、従業員に対して福利厚生の一環として提供する飲み物や、農作業中の熱中症対策として用意する飲料・塩分補給用品などは、業務上の必要性や提供状況などによって経費として認められる場合があります。
作業着についても同様です。長靴、軍手、農作業専用の防護服、雨具など、農作業で使用することが明確なものは経費にしやすい一方、普段着としても利用できる一般的な衣服は慎重に判断する必要があります。
農産物の販売先との商談や打ち合わせなど、農業に直接関係する飲食代であれば、必要経費として計上できる可能性があります。
取引先へのお中元やお歳暮なども、事業上の関係を維持するためのものであれば「接待交際費」などとして処理できます。
ただし、家族や友人との個人的な飲食を経費にすることはできません。飲食代や贈答品代は私的支出との区別が分かりにくいため、領収書に加えて「誰と」「何の目的で」利用したのかを記録しておきましょう。
家族が農作業を手伝っているからといって、支払った金額を自由に経費にできるわけではありません。
青色事業専従者給与として経費にする場合は、生計を一にする15歳以上の親族で、原則としてその事業に専ら従事していることなどの要件があります。
さらに、実際に農作業を行っていることや、仕事内容に対して給与額が適正であることも重要です。家族へ外注費として支払っている場合でも、契約書上の名称だけで判断するのではなく、実際の働き方や業務内容を確認する必要があります。
軽トラックや普通自動車を農作業と私生活の両方で利用している場合、農業で使用した部分のみ経費にします。
たとえば、年間走行距離が10,000km、そのうち農産物の出荷や資材購入など農業目的の走行が7,000kmであれば、走行距離を基準として70%を事業利用割合とする方法が考えられます。
自宅の一部を農業用事務所や資材置き場としている場合も、床面積などを基準に家賃や固定資産税、光熱費などを按分します。重要なのは、一律の割合を使用するのではなく、実際の利用状況を説明できる合理的な基準を使うことです。
農機具は購入金額によって処理方法が異なります。
少額なものは購入した年の経費にできる一方、トラクターやコンバイン、農業用施設などは固定資産として計上し、原則として複数年にわたって減価償却します。
使用可能期間が1年未満のものや、取得価額が10万円未満の減価償却資産については、原則として使用を開始した年に取得価額を必要経費にできます。
また、取得価額が10万円以上20万円未満の資産については、一定の要件を満たせば3年間で均等に必要経費へ算入する「一括償却資産」の制度を利用できます。
さらに、一定の要件を満たす青色申告者には、少額減価償却資産を取得した場合に取得価額をその年の必要経費にできる特例もあります。
2026年度税制改正により、2026年4月1日以後に取得等をして事業の用に供する資産については、一定の要件のもと、少額減価償却資産の特例の取得価額基準が従来の30万円未満から40万円未満へ引き上げられました。
2026年3月31日以前に取得等した資産については、従来の30万円未満の基準を確認する必要があります。また、この特例を適用できる資産の取得価額の合計額は、年間300万円が上限です。
【出典元】 財務省|令和8年度税制改正の大綱(3/9) 国税庁|令和8年度 法人税関係法令の改正の概要
トラクター、コンバイン、田植機、農業用車両、農業用設備など、長期間使用する高額な資産は、原則として購入した年に全額を経費にはできません。固定資産として計上し、税法上の耐用年数に応じて毎年「減価償却費」を経費として計上します。
取得価額には、本体価格だけでなく、購入手数料や運送費など、資産を取得して農業で使用できる状態にするために直接必要となった費用が含まれる場合があります。
また、購入しただけでは減価償却は始まりません。実際に農業で使用を開始した時点から減価償却を行う点にも注意しましょう。
中古の農機具を購入した場合、新品と同じ法定耐用年数をそのまま使用するとは限りません。
取得後の使用可能期間を合理的に見積もれる場合はその年数を使用し、見積もりが困難な場合には一定の簡便法によって耐用年数を計算できることがあります。
また、中古農機具を購入した直後に大規模な改良を行った場合などは、簡便法を利用できないケースがあります。
農機具の修理費も注意が必要です。壊れた部品を交換して元の状態へ戻す通常の修理は修繕費にできますが、性能を大幅に向上させたり、使用可能期間を延長させたりする工事は「資本的支出」として資産計上し、減価償却が必要になることがあります。
農機具や農業施設を購入する際、国や地方公共団体などから補助金を受け取ることがあります。一定の国庫補助金等を固定資産の取得や改良に充てた場合、所定の要件を満たせば、固定資産の取得などに充てた部分について総収入金額に算入しない取扱いを受けられる場合があります。
この処理を行った場合は、補助金等の金額を控除した後の取得価額を基礎として減価償却を行います。一般的に「圧縮記帳」と説明されることもありますが、個人事業主の場合は所得税法上の国庫補助金等の総収入金額不算入の取扱いを確認する必要があります。
補助金の種類によって税務処理が異なるため、高額な農機具や設備を補助金で購入した場合は、交付要綱や通知書を保管しておきましょう。
農業では、1年間の支出を記帳するだけでは確定申告の準備は完了しません。
年末には、肥料や農薬などの在庫を確認するとともに、固定資産や未払経費などを整理する必要があります。
年末時点で残っている肥料や農薬などについては、棚卸しが必要になる場合があります。
年内に購入した肥料を翌年の農作業で使用する場合、その分まで当年の必要経費にすると、実際の収益と費用が対応しなくなってしまいます。そのため、原則として12月31日時点の数量を確認し、棚卸資産として整理します。
農業では、農産物、未収穫農産物、販売用の動物、肥料、農薬などが棚卸しの対象となります。しかし、毎年同程度の数量を翌年に繰り越す肥料や農薬などについては、一定の場合に棚卸しを省略できる取扱いもあります。
減価償却が必要な農機具や施設を購入した場合は、固定資産台帳で管理します。固定資産台帳には、一般的に次のような情報を記録します。
トラクターやコンバインなど複数の農機具を所有している場合、固定資産台帳を作成していないと、売却や廃棄をした際に帳簿上の残高を確認しにくくなります。購入時から資産ごとに管理しておきましょう。
経費を計上する場合は、その支出が実際に発生したことを確認できる資料を残しておくことが重要です。領収書やレシートだけでなく、請求書、納品書、振込明細、クレジットカード明細、JAの購買・販売明細なども保存しておきましょう。
特にJAとの取引では、農産物の販売代金と、資材購入費、手数料などが一つの明細に記載される場合があります。入出金額だけではなく、取引内容ごとに確認することが大切です。
請求書や領収書をデータで受け取った場合は、電子取引の保存ルールに従い、受領した電子データを適切に保存する必要があります。
【出典元】 国税庁|記帳や帳簿等保存・青色申告 国税庁|電子帳簿保存法の概要
税務調査では、帳簿に「経費」として記載されているだけで、そのすべてが認められるわけではありません。
農業との関連性や実際の利用状況、支払いの事実などを確認されることがあります。
税務調査で問題になりやすいのが、生活費などの私的支出を経費に含めているケースです。
たとえば、自家用車の費用を全額農業経費としているにもかかわらず、実際には買い物や旅行などにも利用している場合、私用部分を経費から除外する必要があります。
自宅の電気代や固定資産税についても同様です。「毎年なんとなく50%」など根拠のない割合を使用するのではなく、走行距離、床面積、使用時間などを基に説明できるようにしましょう。
家族への給与や外注費についても、実際に農作業を行っているか確認されることがあります。
たとえば、農作業の実態がほとんどない家族に毎月高額な給与を支払っている場合や、仕事内容に対して給与額が著しく高い場合は注意が必要です。
青色事業専従者給与を利用している場合は、届出書だけでなく、仕事内容、勤務状況、給与の支払記録なども残しておきましょう。外注費についても、請求書や契約書に加えて、どのような作業を依頼したのか確認できる資料を保存しておくと安心です。
農機具や農業施設にかかった費用を「修理代」として支払っていても、必ずしも全額を修繕費にできるとは限りません。
通常の維持管理や原状回復であれば修繕費となりますが、資産の価値を高めたり、耐久性や使用可能期間を向上させたりする支出は、資本的支出となる可能性があります。
たとえば、古くなった設備を単に元の状態に戻す工事と、従来より高性能な設備へ大幅に更新する工事では取扱いが異なることがあります。高額な修理や改良を行った場合は、工事内容が分かる見積書や請求明細を保存しておきましょう。
農業では、資材を現金で購入したり、地域の事業者へ現金で作業代を支払ったりするケースもあります。
現金払いそのものが経費として認められないわけではありませんが、銀行振込やクレジットカード払いに比べると、後から支払いの事実を確認しにくくなります。領収書が発行されない場合は、支払日、相手先、金額、支払内容などを出金伝票や帳簿へ記録しておきましょう。
単に「農業経費10万円」などと記帳するだけではなく、誰に何のために支払ったのか説明できる状態にしておくことが重要です。
農業では、種苗費や肥料費、農薬費、燃料代、農地の賃借料、出荷費用など、農業収入を得るために必要な支出を経費にできます。
一方、生活費などの私的支出は経費にできません。自宅や車を農業と私生活の両方で使う場合は、使用面積や走行距離などを基準に家事按分します。
また、高額な農機具や農業施設は減価償却が必要です。年末に残る肥料や農薬の棚卸し、補助金で取得した設備、大規模な修理・改良なども処理に注意しましょう。経費かどうか迷った場合は、「農業収入を得るために必要な支出か」「帳簿や資料で説明できるか」を基準に判断することが大切です。
領収書やJAの明細などを整理し、判断が難しい場合は税理士などの専門家へ相談しましょう。
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この記事の監修者
税理士法人松本 代表税理士
松本 崇宏(まつもと たかひろ)
登録者30万人以上のYouTubeチャンネル「税理士法人松本〜税金の裏のウラ〜」を運営。 代表を務める税理士法人松本では、これまでに累計5,000件を超える税務調査のご相談・対応実績があり、国税局査察部、税務署長歴任者・税務調査一筋の現場に強い国税出身のOB税理士が現在15名常駐。国税当局側の視点を踏まえて、お客様の立場を尊重し、税務調査でお悩みのお客様に適切かつ迅速に対応。また、調査前・調査中に関わらず、あらゆる状況から最善のサポートが可能。なお、調査結果が追徴税額なしとなる実績も多数取得。税務調査における専門性・経験則・折衝力から最善の結果を導き、お客様の笑顔とありがとうを励みに成長し続けている。
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